記者会見で、上村秀紀報道室長(右)から資料を受け取りながら質問に答える菅義偉官房長官=2019年7月23日 (c)朝日新聞社
記者会見で、上村秀紀報道室長(右)から資料を受け取りながら質問に答える菅義偉官房長官=2019年7月23日 (c)朝日新聞社
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「あなたに答える必要はありません」――。こう一刀両断し、政府にとって不都合な質問を封じ続ける菅義偉官房長官。今回の内閣改造でも官房長官に留任した。記者の質問が日に日に軽視され、急速に変質する政治とメディアの関係。官邸による記者への質問制限・妨害の内情を詳細に描いた『報道事変』(朝日新書)を出版し、自身も朝日新聞の政治部記者として500回以上の官房長官会見を取材してきた新聞労連委員長の南彰氏が、その内幕の一端を明かす。

*  *  *

「盗人猛々しい」とは、こんなときに使うのだろうか――。

 内閣改造を10日後に控えた9月1日。ある全国紙の日曜版の1面を埋め尽くすインタビューに思わずのけぞった。

「安倍政権は、多くの国民が『当たり前だ』と思う改革をする政権。だから、現場の感覚を知るのは大事です。それに、記者会見では間違ったことは言えない」

 驚いたのは後段だ。「総理のご意向」などと書かれた文部科学省の文書が報じられた時に、「怪文書のようなものだ」と言って存在を否定するなど、数々の問題答弁を重ねた菅義偉官房長官が記者会見の重要性を説いているのである。大切な仕事道具を紹介する「私のイッピン」でも、菅官房長官は記者会見時に使う応答要領を挟む革製バインダーを持ち出し、「なじんできて体の一部みたいになっています。『絶対に失言しない』との思いを込めた、お守り代わりにもなっています」というコメントしていた。

「令和おじさん」として知名度がアップし、「ポスト安倍」が視野に入ってきた菅官房長官。最近は、好物のパンケーキを食べながら女性誌のインタビューを受けるなど、イメチェンに余念のない。しかし、この人は6年半以上続く政権のなかで、日本中枢の記者会見のあり方を変質させ、「質問できない国」にしていった張本人である。

 菅官房長官のメディア観は、さまざまな質問制限・妨害行為を行いながら、東京新聞社会部の望月衣塑子記者の質問をせせら笑う姿にもあらわれているが、最も象徴的なのは、「記者のいない記者会見」だ。

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「記者のいない記者会見」とはどんな会見だったのか?