箸にも棒にも掛からないわけではなく、多少仕事があったりする。むしろ、それが人生設計を狂わせる。実際、洋七のところに相談してくる芸人も、まさにそのゾーンの芸人が多いという。

「あと1年、あと1年と言っていつの間にか40歳、45歳になってる。そこからの人生設計はできないですよ。難しすぎる。メシ食いに行ってたら、そこの店員さんから『NSC〇期生の○○です。このお店でバイトしてまして!』とか挨拶されることもあるんやけど、顔見たら、もう結構オッサンなんよ。こっちからは『頑張りや』としか言えんけど、いろいろ考えると切ないわ。自分の弟子やったら『もう辞めとき』と言うけどね。正味の話、弟子には10年やって『M-1グランプリ』で結果が出なかったら辞めるように諭した。33歳で辞めて、今はカウンターだけの小さい中華料理屋さんをやって、家族を養ってる。立派なもんですよ。遅れれば遅れるほど人生の立て直しがきかんようになるし、ホンマは吉本なりがプロ野球みたいに戦力外通告をしてあげるのも、オレは優しいことやと思うけどね」

 今後、今回の騒動がより良い形で収まっていくためには、何が必要なのか。そこに関しても明確な答えが返ってきた。

「最近になって、吉本も、テレビ局とかにいくらでその芸人を出しているのかという“売値”を本人に伝えると言い出したけど、これは絶対に言わなアカン。そこが分からんから、芸人からしたら『ムチャクチャ、吉本に取られてるんちゃうの…?』という不信感も出る。まずはこの信頼感の問題。あと、自分の売値を知ることは大事なんよ。自分がいくらのタレントなのか。ここを知るからこそ、仕事にプライドも出てくるし、向上心も出てくる。芸人は商品やからね」

 組織としての吉本興業の在り方や新たな契約方法など、今回のことがきっかけでいろいろな話が出てきたが、洋七いわく、それでも芸人がやるべきことは一つだと強調する。

「芸人はとことん芸を磨くことですよ。バイトも最低限。とにかく稽古。『スリムクラブ』とも謹慎中にも会って、メシ食ったんですよ。お前ら『M-1』で2位になったか知らんけど、そこから落ちてるだけやん。道歩いていたら声かけてもらえるやろうけど、それはお前らしかおらんから言われるねん。何組かおったら、声かけられん。それは売れてるんと違うから。タレント気分になってるけど、お前らは芸で2位になったんやろ。今は芸を磨いてへん。そんな話をしたら、泣いてました。もう一回『M-1』出ると。今は相当稽古をしているみたいです。吉本の良さは、劇場があるからそこで腕が磨ける。これですよ。ほんで、鍛えて鍛えて、人の3倍面白かったら、絶対に使われる。頑張りがいがあるとオレは思うんやけどな」(中西正男)

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中西正男

中西正男

芸能記者。1974年、大阪府生まれ。立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当として、故桂米朝さんのインタビューなどお笑いを中心に取材にあたる。取材を通じて若手からベテランまで広く芸人との付き合いがある。2012年に同社を退社し、井上公造氏の事務所「KOZOクリエイターズ」に所属。「上沼・高田のクギズケ!」「す・またん!」(読売テレビ)、「キャッチ!」(中京テレビ)、「旬感LIVE とれたてっ!」(関西テレビ)、「松井愛のすこ~し愛して♡」(MBSラジオ)、「ウラのウラまで浦川です」(ABCラジオ)などに出演中。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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