本書では、物心ついた頃から笑いのことだけを考え続けてきた「笑い脳」の持ち主であると自負する塙が、「M-1」と漫才についてさまざまな切り口から自分の考えを述べている。お笑い関連の書籍をこれまでに何百冊も読んできた私のような人間が見ても、思わずうなってしまうほどの鋭い見解が詰まっている。

「関東芸人はM-1で勝てない」という大胆な主張から始まり、漫才が関西の文化であることを明らかにするところや、そんな中でアンタッチャブル、パンクブーブーといった非関西系の漫才師がなぜ「M-1」を制することができたのかを分析するところなどは特に興味深い。

サッカーで言えば大阪は漫才界のブラジル」「M-1は100メートル走」「時事ネタ漫才師はフグの調理師免許を持っているようなもの(世相の毒抜きがうまい)」「『R-1ぐらんぷり』は猪木・アリ戦のようにそれぞれの芸が噛み合っていない」など、分かりやすい例えを駆使して独自の見解が示されるところには、文章で見せる「芸」としての面白さもある。

 塙の写真が載っている黒いカバーには「令和の漫才バイブル」というコピーが打たれているが、これは誇張でも何でもない。これから漫才を始めたい芸人志望者、「M-1」で優勝したい芸人、「M-1」や漫才をもっと楽しみたい一般人など、笑いを愛するすべての人が絶対に読むべきお笑い史に残る名著である。(ラリー遠田)

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