華やかなプロ野球の世界、選手たちがグラウンドで熱い戦いを繰り広げる陰には、それを支える多くの裏方たちがいる。その存在自体は誰もが知っているが、その実態を知る人は少ない。そんな彼らの日常を紹介する「プロ野球の裏方たち」。今回は西武ライオンズの「打撃投手」を務める山下英(すぐる)さん(34)に話を聞いた。山下さんは独立リーグで5年間投手としてプレーしていた元選手。打撃投手に転向した苦悩や、選手たちとの秘話を語ってもらった。
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――打撃投手になった経緯を教えてください。
山下:2011年までBCリーグ・独立チャレンジリーグに所属する「石川ミリオンスターズ」の投手でした。NPBからのドラフト指名を目指して5年間プレーしましたが、収入は月に12万円ほど。シーズンオフの冬はバイト漬けで、月に30万円を稼いで貯金をしないと、生活するのもギリギリでした。もう1年続けるか、他の仕事に就職するかで迷っていたところ、26歳のときに埼玉西武ライオンズから声をかけてもらいました。
――現役を退くことに葛藤はありましたか?
山下:未練はなかったです。生活が苦しかったので、この環境で長く続けるわけにはいかないと思っていました。当時の石川の球団社長から「西武から打撃投手の話がきている」と電話があり、「行きます!」と即答しました。
――打撃投手の仕事について教えてください。
山下:フリー打撃では、15~20分という短時間で先発投手並みの100球前後を投げます。現役の時は1時間かけて肩をつくりましたが、今はわずか10分のキャッチボールで準備しなければなりません。打撃ゲージが2か所で投手は2人1ペア。3交代制で投げ、7人いる打撃投手のうち毎試合6人が投げます。慣れるまでは毎日が筋肉痛との闘いでした。肩が重いときも投げなくてはいけない。ちなみに、打撃練習中に外野で打球を捕っているのは、投げ終えた打撃投手や外国人選手の通訳などです。この仕事も、疲れている時にはしんどかったりします。