ちなみにこの日は、広島も本塁打2本の2安打だけでヤクルトに4対3と勝利しており、同じ日に1安打勝利と2安打勝利が重なるという不思議な1日でもあった。

 シーズン最終戦でやっと1号本塁打が飛び出したと思ったら、三塁打に格下げされ、結局ノーアーチで終わったのが、巨人・川相昌弘。

 94年10月8日の中日戦(ナゴヤ)。ともに69勝61敗で迎えた両チームは、シーズン最終戦の直接対決で勝ったほうが優勝という名実ともに天王山の一戦に。長嶋茂雄監督の「国民的行事」というセリフにふさわしい盛り上がりを見せた。

 珍事が起きたのは9回表。6対3とリードした巨人は、先頭の川相が野中徹博からセンターに大飛球を放った。打球は中堅フェンス上部を越えて、バックスクリーンに当たって跳ね返ってきたように見えた。この年、川相はまだ本塁打がなく、文字どおり最後の最後で飛び出したダメ押し1号ソロで優勝に花を添えたと思われた。

 ところが、福井宏二塁塁審は「フェンスに当たった」として「インプレー」をコール。全力疾走の川相は頭から三塁に飛び込み、三塁打となった。それよりも早く、長嶋監督がベンチを飛び出し、「ホームランだろ! 入ってるじゃないか!」と小林毅二球審と福井塁審に詰め寄ったが、判定は覆らず、アーチは幻に……。

 しかし、当人は不運を悔しがるどころか、「優勝すれば(本塁打かどうかなんて)どうでもいいよ。打率も3割打てたし、優勝もできたし、とにかく最高です」とつなぎ役の2番打者らしいコメントで締めくくった。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。

著者プロフィールを見る
久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

久保田龍雄の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
【フジロック独占中継も話題】Amazonプライム会員向け動画配信サービス「Prime Video」はどれくらい配信作品が充実している?最新ランキングでチェックしてみよう