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「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第6回は「タイのおもしろ日本語」について。
* * *
日本からタイへ。タイから日本へ。それぞれ年間100万人を超える人々が行き来する時代である。それぞれの国の言葉が互いに定着していくのは自然だろう。日本ではパクチー、ガパオといったタイ語がメニューに躍り、タイでは温泉、おいしいといった日本語を多くの人が知っている。
そういう文脈でとらえていいのだろうか。
その日、僕はBTSという高架電車に乗って、バンコク郊外のサムローンを訪ねた。駅近くにショッピングモールがあった。そこに入ろうすると、入口脇にある一軒の小さなコーヒーショップが目にとまった。
<KISSATEN Cafe>
(実際にはeはアクセント記号付き)
その店名の前で固まってしまった。
「喫茶店カフェ?」
これは間違えたのだろうか。
タイ人が日本に旅行に出かけたとする。日本人と会い、コーヒーを飲んだ。そのとき、日本人たちは、「喫茶店」と呼んでいた。
「日本ではコーヒーを飲む店を喫茶店と呼ぶのか」
そのタイ人がタイでコーヒーショップを開いた。店名で悩んだとき、ふと、日本旅行を思い出した。