下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)
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看板はちゃんとデザインされている。やはりこれは間違いではない?
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「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第6回は「タイのおもしろ日本語」について。

【「喫茶店カフェ」の看板はこちら】

*  *  *

 日本からタイへ。タイから日本へ。それぞれ年間100万人を超える人々が行き来する時代である。それぞれの国の言葉が互いに定着していくのは自然だろう。日本ではパクチー、ガパオといったタイ語がメニューに躍り、タイでは温泉、おいしいといった日本語を多くの人が知っている。

 そういう文脈でとらえていいのだろうか。

 その日、僕はBTSという高架電車に乗って、バンコク郊外のサムローンを訪ねた。駅近くにショッピングモールがあった。そこに入ろうすると、入口脇にある一軒の小さなコーヒーショップが目にとまった。

<KISSATEN Cafe>
(実際にはeはアクセント記号付き)

 その店名の前で固まってしまった。

「喫茶店カフェ?」

 これは間違えたのだろうか。

 タイ人が日本に旅行に出かけたとする。日本人と会い、コーヒーを飲んだ。そのとき、日本人たちは、「喫茶店」と呼んでいた。

「日本ではコーヒーを飲む店を喫茶店と呼ぶのか」

そのタイ人がタイでコーヒーショップを開いた。店名で悩んだとき、ふと、日本旅行を思い出した。

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いきさつを想像してみるが…