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近年、歯周病菌とアルツハイマー型認知症(以下、アルツハイマー病)の関係についての研究が多数、報告されています。そんな中でも、ひと際、注目される論文が今年1月に発表され、アルツハイマー病治療に一役買うのではないかと期待されていると聞きました。詳しい内容と歯科医師としての見解を、『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか? 聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中の歯周病専門医、若林健史歯科医師に聞いてみました。
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2019年1月23日に「Science Advances」という医学雑誌に「歯周病菌とアルツハイマー病」に関する論文が掲載されました。この内容が今、歯科医師の間で話題になっています。
論文はアメリカの製薬会社であるコルテキシム社の研究チームが発表したもので、死亡したアルツハイマー病患者54人の脳の96%から、歯周病菌の一つである「ポルフィロモナス・ジンジバリス」(P.ジンジバリス)が生み出す「ジンジパイン」という有毒な酵素が見つかったというものです。
そして、このジンジパインが見つかった脳では、アルツハイマー病と強い関連がみられるたんぱく質の「タウ」と「ユビキチン」が大量に存在していました。そこで研究チームはジンジパインがアルツハイマー病の発症に関連しているかどうかを調べるため、1日おきに健康なマウスの歯にP.ジンジバリスを塗布、これを6週間続けたところ、脳から、通常より高い水準のアミロイドβたんぱく質とP.ジンジバリスが見つかりました。アミロイドβたんぱく質は老人斑の主要な構成成分で、アルツハイマー病の特徴的な所見です。
さらに、コルテキシム社はこうした実験を元に、歯周病菌を抑制してジンジパインの産生を抑える薬(ジンジパイン阻害薬)の開発に成功。すでに動物実験などで、この薬を投与して認知機能の向上などの有効性が確認されたことから、この4月から、全米でヒトを対象に臨床試験を開始しているというのです。
歯周病菌がアルツハイマー病を引き起こす物質の可能性としては、ジンジパインのほかにも「カテプシンB」という酵素や口臭の原因となる「酪酸」なども報告されています(認知症が歯周病の原因に? 歯周病専門医の答えは?)。
しかし、そうした研究から薬の開発、臨床試験に至った話は私の知る限り、聞いたことがありません(カテプシンBについてはこれを阻害する食品の研究開発が始められています)。