ひきこもり自立支援施設をめぐっては、東京都内の別の自立支援施設に入れられた30代男性が今年2月、施設に対して550万円の損害賠償を求める訴えを起こしている。消費者庁も、民間の自立支援施設の契約や解約をめぐるトラブルについて注意喚起をしている。

 ひきこもりの問題に詳しい精神科医の斎藤環・筑波大教授は、こう話す。

「全国の自立支援施設には、ひきこもりの当事者だけではなく、他の精神疾患を抱えている人たちもたくさんいて、適切な治療を受けていない人も多い。なかには、自立支援施設に入れられたことで精神的なショックを受け、フラッシュバックに悩む人もいます。本人の意思に反して施設に入れる行為には合法性がなく、自己決定権の侵害であり、ひきこもりの治療にも逆効果でしかありません」

 厚生労働省が定めた「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」では、「入室を拒否する当事者の部屋へ強引に侵入する」ことは「望ましくない」と記している。また、自立支援施設に入れられた人の家庭は親子関係に問題があることも多く、斎藤教授は、「施設に子どもを強制的に入れることで、さらに親子関係がこじれることも多い」と警鐘を鳴らす。

 藤野さんも、施設を脱走してから再就職先を見つけ、自立した生活をはじめた今でも、母親と施設への怒りが消えない。現在は、母親への訴訟も視野に入れながら、裁判所で調停を続けている。斎藤教授はこう話す。

「ひきこもりや発達障害の子を抱える親の不安を『ビジネスチャンス』として狙っている業者は多い。高い費用をかけて子どもを民間の施設に入れる前に、適切な医療機関に相談してほしい」

* * *
【ワンステップスクール湘南校 広岡政幸校長への一問一答】

──元入寮者の中には、自らの意思とは関係なく入寮させられ、退寮を求めても認められなかったという人がいます。

 施設には、自分の意思で来る子もいるし、支援を求めてくる子も、親から虐待を受けて緊急で保護している子もいる。一人ひとりに入寮の事情があるが、強制的に入寮させていることはありません。

 保護をする時には、必ず自分でドアを開けさせて、自分でドアを閉めさせることにしています。荷物も自分で持たせます。

 退寮については、経済的にも精神的にも自立していれば許可します。

次のページ
施設への出入りは自由