訓練は本年度と来年度に2回ずつ、フィリピンの鉄道事業者を相手に計3カ月ほど日本で行う。その第1回目の研修に訪れた。
東京メトロ有楽町線とJR京葉線、りんかい線が接続する新木場駅の近辺に、東京メトロ新木場車両基地があり、総合研修センターはその敷地内にある。研修センターに入ってまず目についたのは、両国の国旗と「Welcome to Tokyo Metro!」のメッセージが映し出された掲示板。さりげないおもてなしの精神を感じて、思わず笑みがこぼれる。
続く壁面には、日本初の地下鉄建設を成し遂げた、東京地下鉄道社長・早川徳次氏の業績がパネル展示されていた。「およそいかなる世にも仕事をするに大切なるものは人である。ことに大切なのは人の和である。協力一致の精神である」という『社員読本』の言葉が目に入る。早川は社員教育に力を入れた経営者でもあり、職員の目指すべき人間像として、聖徳太子、釈迦、キリスト、孔子の4聖人を目指すことを説いた。そういた社是も、このたびの研修につながっているのだろうと感じさせられる。
続いて、広報担当者に案内されてセンター内を巡る。通常の企業ビルのようなつくりだが、前述した4聖人の像や、トイレの案内パネルに書かれた「東京メトロ駅と同じ仕様」の一文で、ここが訓練施設であることを実感する。教室で事前レクチャーを受けた後に向かったのが模擬駅だ。ビル内に設けられた実際の駅そのままのエリアには、自動券売機や料金表、自動改札機が並ぶ。ここで東京メトロの職員と通訳、またフィリピン運輸省の職員13人と合流。フィリピン運輸省の職員たちは、複数の女性も含めみな見た目が若い。
「車いすのお客さま役をどなたか、なさりませんか」。東京メトロ職員の呼びかけに、フィリピン運輸省の男性職員が応じた。ここでは、東京メトロ職員が、介助の基本である「車いすに座った方の目線に自分の目線を落として話している」ことに感心した。フィリピン運輸省職員も、車いす使用者の目線で駅の様子や施設の使い勝手を確かめようと、周囲を見回していた。
■実際の駅そのものの模擬駅で訓練
車いすを列車内に移動させるための渡り板の説明を受け、模擬ホームへと移動する。ホームへと続く階段には、東京メトロ駅と同じフォーマットで「訓練線」の表記があり、センター中央駅という記載があった。駅ホームは実際の駅そのもので、1面2線の島式ホームの両側に、3両編成の6000系試作車と05系電車が停車していた。05系の側にだけホームドアが付いている。駅ホームの柱や天井、床の一部は中が見えるようになっており、駅の構造をわかりやすく伝えている。
今度は、「非常停止合図器を押してみませんか」と声がかかる。非常停止合図器とは、駅の柱に設けられたボタンのこと。プラットホームから乗客が線路に転落した場合など、緊急時に押すスイッチだ。フィリピン運輸省職員が少し戸惑いながらボタンを押すと「ファンファンファン」と大きな警報音が鳴った。