「息子はいつも、『今日はいるかな?』と遊んでくれそうな人の部屋の前をうろうろしています。子育ては大変なことだけじゃありません。感動や楽しみもあります。だから拡張家族との共同子育ては、大変なことを押しつけているのではなく、みんなで貴重な経験を“分かち合おう”という思いです」(同)

 親子という関係にこだわらず、「みんな」で子育てをする拡張家族の人たち。「ワンオペ育児」「保活」という言葉が一般化するほど、現代の子育て環境が厳しくなるなかで、このような子育てに興味を持つ親も多いだろう。一方で、日本では「子育ては両親が責任をもってするもの」という価値観は今でも根強い。では、子どもは本当に「親」によってだけ育てられるべきなのか。そして、シェアハウスでたくさんの「親」から育てられた子どもは、将来、どのように感じるのだろうか。

 今年、25歳になった加納土(つち)さんは、約30人の大人に育てられた経験をもつ。

 土さんが共同子育ての環境に置かれたのは、母親の穂子(ほこ)さんがきっかけだった。穂子さんは当時23歳で、シングルマザーで1歳の息子をどのように育てるか悩んでいた。そこで思いついたのは、子育てを一人で背負い込むのではなく、一緒に育ててくれる大人を探すことだった。近所にまいたビラには、このように書いた。

<私は、土に会いたいから土を産んだのです。ハウスに閉じこもってファミリーを想い、他者との交流のない生活でコドモを(自分も)見失うのはまっぴらゴメンです。共同保育の共同って一体なんだろう。それはどこまで可能なんだろう。コドモとオトナ、女と男、母親に対する社会のまなざし、などなどこえて付き合うことで考えさせられることがいろいろあります。平日PM17:30~22:00くらいまで保育に入れる人いませんか>

 反応は予想以上だった。独身男性、幼い子がいる母親など10人ほどが集まったのだ。穂子さんは夜間に写真の専門学校に通い、昼は仕事の日々。子どもの面倒を見られないとき、保育人たちが親子の住むアパートで共同保育をしていた。

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「沈没家族」と名付けられた理由