約30人の“親”に育てられた加納土さん(撮影/平井明日菜)
約30人の“親”に育てられた加納土さん(撮影/平井明日菜)
加納土さんが育った沈没家族(c)おじゃりやれフィルム映画『沈没家族』は、全国順次公開中。http://chinbotsu.com問い合わせ:ノンデライコ(配給)chinbotsu1995@yahoo.co.jp
加納土さんが育った沈没家族(c)おじゃりやれフィルム
映画『沈没家族』は、全国順次公開中。http://chinbotsu.com
問い合わせ:ノンデライコ(配給)chinbotsu1995@yahoo.co.jp

 気のおけない友人たちと一緒に暮らし、家事・育児をともにする。そんなユニークな「家族」がある。ひとり親、独身などさまざまな立場にある人が、血縁を超えて助け、助けられながら共同生活をおくる「家族」は、従来の家族の枠を超えた新しい家族のかたちなのだろうか。

【写真】子育てシェアハウス「沈没家族」の様子

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 3歳の男の子の母である平本沙織さん(34)がスマホを取り出し、「保育園のお迎えに一緒に行ける人いませんか? 19時に帰宅予定」とグループLINEで呼びかけた。すると、すぐに「わたしが行くよ」と返事が戻ってきた。帰宅時には夕飯が待っているときもある。

 このグループは0歳児から60代までの約60人で構成されていて、渋谷の複合ビルで共同生活をしている。グループのメンバーは、自分たちのことを「拡張家族」と名づけている。

 平本さんは、この家に週に3日ほど出入りする「コミュニティーメンバー」だが、昨年の12月までは住民だった。今でも拡張家族の家と、大崎にある夫と住む家を行ったり来たりの生活をおくる。子どもの世話ができる時間帯に夫が帰宅するのであれば、大崎に帰宅し、そうでなければ拡張家族の家に帰る。2拠点生活について、「家族以外に育児を一緒にしてくれる人がいる安心感がある。どちらの家にも仕事道具や着替えなどを置けて、身一つで移動できて便利」(平本さん)と話す。

 子どもができて平本さんの生活は一転した。親や親戚を頼ることができない都会での子育てで、以前のように夢中で仕事をすることも、友人と遊びに行くこともできなくなった。夫は仕事が忙しく、一人の育児に限界を感じていたとき、拡張家族の存在を知った。
 
 入居したのは2017年秋。拡張家族の家には、共有のキッチンやリビングの他に、19の部屋がある。家賃は一番安い部屋で月に約16万円。決して安い金額ではない。そのため、複数人で家賃を分担する人が多い。平本さんは40平米の部屋を大人4人と、2人の子どもでシェアしていた。

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