日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、自身も1児の母である森田麻里子医師が、「母乳育児とミルクの関係性」について「医見」します。
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赤ちゃんに与える栄養を母乳にするかミルクにするかというのは、赤ちゃんを育てるママ・パパにとって、やはり気になるところではないでしょうか。一時期の完全母乳「信仰」は少しずつ弱まってきて、母乳の良さは認めつつも、必要な場合にはミルクも積極的に利用する、いい流れになってきたように感じます。
赤ちゃんが産まれて入院している間、いつどんな場合にミルクを足すのかということについても、産院によっていろいろな考え方があるようです。このテーマについて、今月新しい研究結果が発表されましたので、解説したいと思います。
母乳には風邪や中耳炎など様々な病気を予防する効果があるとされていて、世界保健機関(WHO)は、2歳ごろまで母乳を与えることを推奨しています。日本では、正確な統計はないものの1歳前後から母乳をやめる家庭も多く、母乳育児を長く続けたい場合にそれが可能となるよう、サポートが必要です。
母乳育児を続けるという観点からは、産後の入院中に赤ちゃんにミルクを与えるのを、できるだけ避ける方が良いと言われています。その根拠として、新生児の早い時期にミルクを与えると、母乳育児の期間が短くなるという研究が複数あるのです。例えば、2014年にアメリカで発表された論文があります。393人の赤ちゃんを調べたところ、生後2カ月までに母乳を与えるのをやめたのは、入院中にミルクを与えたグループで32.8%、与えなかったグループで10.5%でした。
もちろん、赤ちゃんの水分や栄養をミルクで補うのは、医学的に必要なこともあります。産まれたばかりの赤ちゃんは体がむくみ気味で、最初の数日は体に取り込む水分よりも、体から出ていく水分の方が多くなります。結果として、出生体重より体重が減ってしまうのですが、これを生理的体重減少といいます。5~10%程度までの体重減少は普通ですが、それ以上に体重が減った場合は、ミルクなどを足すのが一般的です。母乳の分泌量は人によって違いますし、最終的に母乳が十分出るママでも、赤ちゃんを出産した直後から十分出るとは限りません。母乳が十分に分泌されるまでは、やはりミルクで補う必要があるのです。