「アメトーーク!」の常連、出川哲朗 (c)朝日新聞社
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 基本的には、芸人が人前でお笑いについて真剣に語ることはあまりない。芸人はそういう話をするものではない、という風潮があるからだ。

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 でも、最近はテレビなどでもたまにそんな場面を見かけることがある。ここ数日でたまたまこの手の企画が立て続けにあった。5月26日放送の「ゴッドタン」(テレビ東京系)では「お笑いを存分に語れるBAR」、5月30日放送の「アメトーーク!」(テレビ朝日系)では「バラエティ観るの大好き芸人」という企画が行われた。いずれも芸人たちが集まって面白いと思うお笑いのネタや番組について語り合うという内容だった。今の時代を代表する2つのお笑い番組が、同じタイミングで似たような企画を行ったのは不思議な偶然である。

 芸人がお笑いに関する専門的な話をテレビで堂々とするようになったきっかけの1つは「アメトーーク!」である。この番組でかつて「ひな壇芸人」という企画が行われた。バラエティ番組でひな壇に座ってトークをすることを生業としている芸人が集まり、そこで必要とされる能力や自分が目立つためのテクニックについて事細かに語った。それは、テレビを普通に見ているだけでは分からない芸人側の裏の苦労や創意工夫を知ることができるという意味で、実に刺激的なものだった。

 この企画以降、「アメトーーク!」ではこの手のお笑い自体をテーマにする企画が行われるようになり、ほかの番組でもそういうものを目にするようになった。

 そもそも、ある仕事の専門家が自分の専門分野について深く掘り下げて話をするのは、面白くないはずがない。例えば、一流の料理人が自分の料理に対する情熱やこだわりを語るのは、多くの人にとって興味深い内容となるはずだ。そこにスポットを当てた「プロフェッショナル仕事の流儀」(NHK)のような番組もある。そういう意味では、芸人がお笑いについて真面目に語るのが面白いのは当然のことなのだ。

 ただ、お笑い界ではこれは基本的にタブーとされてきた。なぜなら、芸人が真面目に仕事に取り組んでいる裏の顔を見せてしまうと、表舞台の活動にも影響が出てくるからだ。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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