加害者の家族として、純さんはいろんな迷惑を受けてきたはずだ。そんな話も、今ではあっけらかんと話す。

「2000年代に入ってからでしょうか。私は趣味でオーケストラのチェロを演奏していたのですが、ある日、ハードケースに入れて部屋に置いていたら、なくなっていました。100万円ぐらいするものだったんですが、兄が売ってしまったんですね。警察も呼んだのですが『犯人はお兄さんではないですか』なんて言われてしまって」(純さん)

 兄の行動をめぐっては、父も純さんも批判することが多かった。それでも、家族は最後まで佐川氏を見捨てることができなかった。

「バカな奴だと思っていましたが、両親も、子どもに絶縁を迫るような性格ではなかったんでしょうね。ケンカもしていましたけど、年末年始なんかは家族4人で集まっていました」

 佐川氏と同じく、純さんも一度も結婚をしたことがない。そのため、両親が亡くなってからは、お互いが唯一の肉親となった。世界を震撼させた猟奇的殺人者を介護していることについて、純さんは「こういう風になってみないと、わからないでしょうね」と言う。というのも、佐川氏が脳梗塞で倒れた時、純さんの心にある変化があったからだ。

「胃ろうで、兄もいつ死ぬかわからなくなって、『かわいそうだな』と思ったんですよね。兄弟愛っていうんでしょうか。昔はとても仲が良かったですから、ようやくその頃に戻れた気がします。いろんなことがありましたけど、今では、わだかまりはまったくないです。むしろ、もっと一生懸命に介護しなきゃいけないなと」

 ちなみに、佐川氏は胃ろうとなった今でも女性を“食べたい”という願望を持っているそうだ。純さんは、そんな兄のことを「まったく理解できない」と笑う。

 最後に、寝たきりとなった兄の存在を今、どう思っているかをたずねてみた。すると純さんは、「うーん……」と少し考えこんで、こう言った。

「いつまでも死んでほしくないですね。そう思います」

 双子のように育てられた二人の物語は、まもなく最終章を迎えようとしている。(AERA dot.編集部・西岡千史)