これらのエピソードは、ごく一部に過ぎないが、イジリとは愛情と親しみの証。この二つがないところに、イジリの花は咲かない。大師匠になっても、イジリのエピソードが増え続けているところに、二人の生き様が表れてもいる。
2016年、上方漫才大賞を受賞後にもインタビューをした。史上最多となる4回目の栄冠となったが、そこで紡がれた言葉にも含蓄があふれていた。
実は、そのタイミングで一つの禁を破った。
劇場のお客さんは、わざわざお金を払って、足を運んで来てくれている。だからこそ、必ずウケる鉄板ネタを披露するとともに、劇場ネタは絶対にテレビではやらないことをルールとしてきた。「テレビで見たことがあるネタだ…」というガッカリ感を与えないためだ。
しかし、テレビで生放送された上方漫才大賞の授賞式で披露したのは、劇場ネタだった。
「よう考えたら、また新しいネタを作ったらエエがなと。そら、しんどいですけど、こっちが頑張ったらいいだけのことですから(笑)」(巨人)
「まずは見てくださっている方が笑ってくれたらうれしいですしね。そして、もし芸人の後輩にも面白いと思ってもらえたら、それはそれでうれしいですし」(阪神)
新たな鉄板ネタを作る。その難しさは芸人ならば全員がイヤというほど知っていることだし、劇場でトリを任せられるベテランクラスになると、いったん鉄板ネタを放棄し、また新しいものを作るというリスクはとんでもなく大きい。
「ネタが命」と知りつつ、それをリセットする。この勇気、覚悟、そして、自信。これがあるからこそ「オール阪神・巨人」は常に進化を続けていく。
「二人にとって漫才とは?」と単刀直入に尋ねたことがある。間髪入れず、二人が声をそろえた。
「最高の仕事です。人に喜んでもらって、自分も気持ち良くて、お金までもらえる。だから、この世界に入ってきたばかりの後輩にも言いたいです。『君らが目指したものは、ホンマにエエもんやねんで』と」