2004年の世界保健機関(WHO)の調べによると、狂犬病ウイルスに暴露された後の年間推計ワクチン接種者数は1500万人であるにもかかわらず、狂犬病の年間推計死亡者数は5万5千人。そのうちアジア地域が3万1千人、アフリカ地域が2万4千人を占めています。また、ヒトにおける狂犬病の感染源の99%がイヌであったと報告されています。


 
 しかしながら、感染源となる動物はイヌだけではありません。ヨーロッパではキツネやコウモリ、アジアではイヌやキツネやコウモリ、アフリカではコウモリやマングースやジャッカル、北米ではアライグマやスカンクなどがからの感染も報告されているのです。なお、ヒトからヒトに感染することはないため、感染した患者から感染が拡大することはありません。

 感染から発症までの潜伏期間は1~3カ月。侵入した狂犬病ウイルスの量やかまれた部位、傷口の程度によってさまざまであり、まれに1週間から長いと1年という歳月を経て発症したというケースもあります。

 発症すると、発熱、頭痛、倦怠(けんたい)感、食欲不振、といった感冒のような症状などが生じることから始まります。そして、ウイルスが中枢神経に広がるにつれて、不安感、恐水症(水への恐怖)および恐風症(冷たい風への恐怖)、興奮状態、まひ、幻覚、精神錯乱などの神経症状脳や中枢神経には進行性の致命的な炎症が生じます。これらの症状が生じると数日後には昏睡(こんすい)状態となり、死んでしまうのです。

 残念ながら、狂犬病後の有効な治療法は現時点ではありません。感染しないようにするためには、旅行先などで不用意にイヌをはじめとした野生動物に近づかないという注意とともに、渡航前の狂犬病ワクチン接種が大切です。

 4週間隔で2回接種、6~12ヶ月後に3回目の接種を行うことで、高い確率で免疫を得ることができ、狂犬病に対して1年から1年半の予防効果が期待できます。渡航前までに3回接種を終える時間がなさそうだ、という場合、2回だけでも接種して渡航しておくといいでしょう。

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