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「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第1回は韓国と台湾で出会った「たくあん」について。
【たくあんが小さくなってきたような気もする? 台湾の魯肉飯はこちら】
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以前、ソウルでチャジャンミョンを食べまくっていたことがある。『週末ソウルでちょっとほっこり』(朝日文庫)の取材だった。チャジャンミョンは、韓国の庶民的な麺料理。タマネギと豚のひき肉を炒め、やや甘みのあるたれと絡め、茹でた麺の上にかけて出される。韓国中華の店には必ずある。毎日、この麺料理を食べ、その奥義を極めようとしたのだ。4食ぐらい食べたときだろうか。同行したカメラマンがこういった。
「10年分ぐらい食べたような気がしますよ」
それはチャジャンミョンのことではない。この料理に必ずついてくる「たくあん」のことだった。
韓国人はたくあんが大好きだ。日本ではあまり見かけなくなった、黄色いパリッとしたたくあん。チャジャンミョンだけでなく、うどんにもついてくる。キムパプという韓国風海苔巻きの具にも欠かせない。コンビニをのぞくと、単品としてたくあんが売られている。
「日本が残したもののなかで、よかったものはたくあんだけ」と韓国人がいうほど、たくあん好きなのだ。韓国のたくあん工場で聞いた話では、消費量はキムチ市場の3分の1ほどにもなるという。この会社の副社長はこういった。
「韓国人と日本人では、たくあんの好みが違うような気がします。韓国人はピクルスというか、サラダっぽい感覚というか、パリッとした歯ごたえを好むんです。さっぱりとした甘みのあるたくあんが好きですね」
話は台北の夜市に飛ぶ。僕はよく寧夏夜市に出かけるが、そこでどちらにするか悩む料理がある。カ哩飯(※カは口編に加)か魯肉飯。カ哩飯はカレーだが、寧夏夜市のそれは、懐かしい日本の昔カレー。片栗粉でとろみをつけた黄色いカレーで、スパイシーさのかけらもない。魯肉飯は台湾の国民食。ご飯の上に煮込んだそぼろ肉が載っている。