ロカルノ映画祭の話を書いている間に、秋の芝居の稽古が始まったり、50歳になったり、民主党が大勝したりしているのですが、もう少しスイス気分でいたいのでおつきあいください。
当映画祭の一番の目玉は、大広場ピアッザ・グランデに設置された野外スクリーンです。
巨大プロジェクターによる上映ですが、野外でもかなりクリアに映ります。さすが61回も行われてきた映画祭。技術の蓄積があるのでしょう。プロジェクターもごつくて、かなりの存在感があります。
「でも、あれどこかで見たことあるよなあ。スーパーXとか、サイコガンダムのフォートレス形態とか・・・」
「あれでボディが丸けりゃ、サイボーグ0011だな」 ミラノから戻った僕たちは、ピアッザ・グランデのリストランテで夕食をとりながら、ろくでもないことを言っています。
自慢のプロジェクターをアニメや特撮のメカに例えられたら、ロカルノ映画祭の運営委員達もガッカリでしょう。
でもまあ、こういうことを言う人間達が、『グレンラガン』を作ったのも事実です。
さて、翌日はいよいよ『劇場版グレンラガン』二部作の上映日。
夕方の記者会見のあと、夜21:00から『紅蓮篇』の上映。そのあと舞台挨拶と観客とのQ&Aをはさんで、23:00から『螺巖篇』の上映となります。
イベントや韓国のアニメーション映画祭などで、何度かお客さんの前にたったことはありますが、彼らは基本的に『グレンラガン』のファンでした。
今回は、日本から遠く離れたスイスの普通の映画祭。いくら日本アニメの特集企画とはいえ、それ目当ての人が何人来ているのかわかりません。しかも作品の上映は、終了すれば午前1時を回るという深い時間。
記者会見の質疑応答で質問は出るのだろうか。深夜の上映会場にお客さんはくるのだろうか。かなりアウェーな気分です。
前々日のテレビシリーズ放映の時もその気分はあったのですが、Lくん騒動で、舞台挨拶の場ではそれどころじゃなかったのです。
まあ、記者がいればめっけもの、お客さんがいたらめっけものの気分で臨めば深くは落ち込まないだろうと自分に言い聞かせて、記者会見の場に向かいました。
まずは写真撮影と、通訳のEさんとの打合せ。Eさんは、日本に20年ほど暮らしていたというスイス人です。前回の反省を踏まえて、『MANGA IMPACT』のプロデューサーであるカルロ・シャトリアン氏も同席し、記者会見と舞台挨拶のための打合せをやりました。進行の具体的な打合せというよりは、僕たちがどういう狙いでこの作品を作ったのかなど、作品とスタッフに関してEさんが理解するための打合せという感じでした。確かに質疑応答になった場合、僕たちの考え方のベースを理解しておいたほうが何かと応用が効くでしょう。
壇上に上がったのは監督の今石さん、副監督の大塚さん、宣伝プロデューサーの真鍋さん、脚本の僕です。
50人ほどの席が用意された記者会見の会場には、それなりに記者が集まっていました。15人ほどでしょうか。まあ、こんなものかなと思います。
一番前には見覚えのある顔が。朝日新聞の小原記者です。アニメ・マンガ好きで有名な方です。僕が朝日新聞で短期のエッセイ連載をした時、担当してもらいました。誰からも質問がなかった時は、きっと彼が質問してくれる。アウェーな気持ちがちょっとだけほぐれました。
作品の紹介のあと、進行役であるカルロ氏が僕らスタッフの紹介を兼ねて仕事の役割を質問してきます。
そのあと記者からの質問を受けることになりました。
普通のアニメ・コンベンションではない国際映画祭だ。いったいどういう質問がくるのだろう。小難しい質問ならやだな。そう構えていると、イタリア人らしき記者が挙手します。
さあ、いよいよ来たぞ。質問はなんだ。作品のテーマに踏み込んだものか、映像表現の演出に対してかと身構えていると「テレビシリーズの第一話を観たのだが、前半のブタの脱走シーン。あれは『あしたのジョー』のパロディーか」。
そこかよ! 一番最初の質問が、元ネタ探しかよ!
ああ、そうです。僕らは出崎統(でざき おさむ)演出のアニメが大好きです。今石監督と胸襟を開いたきっかけは『あしたのジョー2』というアニメがいかに素晴らしいかを語り合ったことだったよ。
でもスイスくんだりまで来て、その質問か。
あー、緊張して損した。オタクはどこに行ってもオタクだよ。
緊張が一気に解けました。
言語の壁はなかなか厳しく、こちらが伝えたいことがなかなか伝わらなかったりもしましたが、予定時間内を充実した質疑応答で過ごせたかなとちょっと安心しました。
夜の上映会は、テレビシリーズの時と同じラ・サーラ。
懸念していた集客も、ま、それなりに。2、3人というわけではなかったのでよしとしましょう。
まず挨拶をすませたあと『紅蓮篇』を一緒に観て、そのあとが質疑応答です。狙ったところや「なぜここで?」と思うところで笑いも起き、クライマックスは客席の熱があがるのがわかりました。
エンドロールが流れ始めると一斉に感想を言い合うところなど、オタクに東西は関係ないなと思ってしまいます。
質疑応答もそれなりに話が出来、終了したあとのガイナックスのスタッフの皆さんの顔を見るとホッと安堵したようでした。ようやく、ちゃんとしたプロモーションができたのですからね。
本当はこのあとに続く『螺巖篇』もスイスのお客さんがどんな反応をするか、一緒に観たかったのですが、翌日帰国しなければならない僕ら夫妻は朝が早いため、後ろ髪をひかれながらも会場をあとにしました。
さて、長いようであっという間に終わったロカルノ行。
国際映画祭に招待されることなどもう一生なかろうと、ガイナックスに紛れ込んでの旅でした。
『グレンラガン』のおかげでいろんな体験が出来ています。改めて作品とそれを支えたスタッフ一同に感謝ですね。