先日、地下鉄南北線に乗っていて奇妙な物を見つけました。
ドアの横の広告スペース、額縁のようになっているその枠に中吊り大の広告ポスター入れるスペースがありますよね。その外側の金枠に、名刺を一回り大きくしたくらいの紙片がはさまれていたのです。
そこには、ワープロでこう書かれていました。
●●●●様
これを見られたら至急連絡乞う。
(本人確認のため名前に年齢を追加のこと)
××××@yahoo.ne.jp
名前はAERA編集長にちょっと響きが似ていました。下のメールアドレスの××××部分には、関東近郊のある都市の名前が入っていました。
とりあえず、ここでは●●●●氏を編集長(仮)氏、このメモを残した人間を関東近郊氏としておきましょう。
しかし不思議です。
関東近郊氏は、どういうつもりで地下鉄の中にこんな紙片を置いたのでしょうか。本当に、編集長(仮)氏がこれを見ると思ったのでしょうか。
近くのドア横の広告を見ましたが、この紙片がはさまれていたのは、ここ一カ所だけでした。僕が見つけたのは、たまたまです。ワープロならば複数の紙片を作るのも簡単です。なぜ車両中のドア横広告にこのメモをはさんでおかなかったのでしょう。彼は編集長(仮)氏が、南北線のこの車両のこのドアを利用することを確信していたのでしょうか。確かに、毎日通勤していると乗り換えや乗降口の便利さなどから自然に電車の乗る位置というのは決まります。その生活習慣を知っていた人物なのでしょうか。
ちなみにはさまれていた広告は、ある英会話スクールのもので、CGアニメのキャラ、シュレックが大きく使われていました。
編集長(仮)氏は、大のシュレック好きで、そのキャラクターを見つけたら絶対に近寄って見ると知っていた。うーむ、これはあまりにも無理があります。
この紙片から見る限り、関東近郊氏は編集長(仮)氏の名前と年齢は知っているようです。
名前と年齢はわかっているが、連絡先はわからない。知っていれば当然こんな面倒くさい方法はとらないはずです。使う路線と乗る位置も知っているとすれば、編集長(仮)氏に関してかなり偏った情報しか持っていないことになります。
そういう人間関係は、いったいどういうものでしょう。
謎は深まります。
これは、いわゆるという奴ですね。
こういうパターンで有名なのは『五十円玉二十枚の謎』でしょう。
作家、若竹七海(わかたけななみ)さんが学生時代、書店でアルバイトをしていた時、毎週土曜の夕方、必ず五十円玉二十枚を千円札に両替しにくる中年男性がいたというのです。
真相はいまだ明かされていません。
ただ、この謎の解決編を東京創元社が公募して『競作五十円玉二十枚の謎』という一冊の本にしたくらい魅力的で有名なです。
都築道夫(つづきみちお)さんは、地下鉄のホームで背広を着ているのに手にも二枚ジャケットを持った男を目撃して、その謎ときを作品にしています。『退職刑事』というシリーズの中の『ジャケット背広スーツ』という短編です。
僕が出くわした地下鉄の紙片の謎も、真相は絶対にわからないのですから、せめて面白い回答くらいは思いつきたいものですが、今日の所は知恵が尽きてしまいました。
ミステリ作家への道は遠すぎる。まして寝不足の劇作家じゃなおさらだって感じです。