こうしたバンスコヨックの成果に他球団も注目しないはずはなく、2018年にはドジャースの同地区ライバルであるダイヤモンドバックスが彼を打撃ストラテジストとして引き抜いた。結果として昨季のDバックスの打撃成績はパッとしなかったが、バンスコヨックの役割は相手投手を分析して戦略を練ることなどだったので、これは一概に彼だけの責任とはいえないだろう。
とはいえ、昨季のチーム本塁打と得点がナ・リーグ1位のドジャースが、メジャーリーガーとしてもコーチとしても実績十分なターナー・ウォード前打撃コーチに代わって、バンスコヨックを以前より高い地位で呼び戻したのは、ギャンブルではある。「フラレボ」が万人に成功をもたらすとは限らず、かえって打撃スタイルを崩す可能性も否定はできないからだ。
だが、ドジャースでは、前述のベリンジャーやテイラーがバンスコヨック不在だった昨季に成績を前年から落としたほか、ヤシエル・プイグ外野手やヤスマニ・グランダル捕手ら中軸打者をオフに放出。テコ入れが必要なタイミングであったのも確かだ。
特にベリンジャーは左投手への対応に苦しむ場面が目立ち、昨季終盤は相手先発がサウスポーの時はスタメンを外されることも多かった。また昨季24本塁打のグランダルに代わって正捕手に就くとみられているオースティン・バーンズの昨季成績は打率2割5厘、4本塁打、14打点。彼らを成功へ導くことがバンスコヨック新打撃コーチの大きな役目となる。
フライボールレボリューションには「野球が大味になる」といった批判があるのも確かだが、長打を高確率で狙えるというのも厳然たる事実。少なくとも当分はこの理論による打撃革命は続くと思われる。その革命の立役者であるバンスコヨック打撃コーチが、ドジャースに1988年以来となるワールドシリーズ制覇をもたらし得るのか。ぜひ注目し続けたい。(文・杉山貴宏)