あらためてバンスコヨックにスポットを戻そう。大学まで野球を続けていたバンスコヨックは、卒業後にプロへ進まず指導者を志した。少年野球の打撃指導や高校や大学でのコーチなどを経て、やがて40歳ほど年上で「フラレボ」の元祖とも言える打撃インストラクターのクレイグ・ウォーレンブロック氏とともにロサンゼルス郊外でプロ相手にも仕事をするようになる。
そして2013年、彼らのもとにあるメジャーリーガーが指導の依頼をもちかけてきた。それがマルティネスだった。当時のマルティネスはアストロズで3年間プレーして通算24本塁打。レギュラーになり切れず、2014年3月には解雇される程度の選手でしかなかった。だがバンスコヨックらによる打撃改造の結果、タイガースでプレーした2014年に打率3割1分5厘、23本塁打とブレイク。2015年には38ホーマーを放ってメジャー屈指のスラッガーへと急成長した。
マルティネスの活躍などで徐々に名前が知られるようになったバンスコヨックに目をつけたメジャー球団がドジャースだった。ドジャースはかつて「マネーボール」理論によるチーム編成で名を上げたポール・デポデスタをGMに抜てきするなど、新理論の導入には積極的な球団。2014年から編成部門の責任者に就いているアンドリュー・フリードマンも野球経験は大学までの元銀行マンで、レイズのGMとして成功した経歴を持つ。
そのフリードマンが編成を統括するドジャースに、バンスコヨックは2016年にウォーレンブロックと共に打撃コンサルタントとして招かれた。ドジャースではフライボール理論を取り入れたジャスティン・ターナー三塁手が30歳近くから一流打者へと成長したという実績があったことも、この人事を後押ししたのだろう。
バンスコヨックがドジャースで一流打者へと成長させた選手を何人か挙げると、クリス・テイラーやコディ・ベリンジャーがいる。2016年まではロースターに残るのがギリギリという立場だったテイラーは、2017年に140試合に出場し、打率2割8分8厘、21本塁打、72打点と覚醒。ナ・リーグ優勝決定シリーズでMVPを獲得する活躍でチームのワールドシリーズ進出に貢献した。
2017年途中にメジャーデビューしたベリンジャーは、132試合に出場して打率2割6分7厘、39本塁打、97打点の活躍で新人王に選ばれている。