一方、直近の復元開始を隠していたのは、賃金の伸びが高めに出ることがわかったうえでの隠ぺいであり、完全にアウトと言っても良い不正である。また、特別監察委員会の報告書やそれを受けての責任追及の終了という判断は、政策論としても間違った方向だ。今後は、それらの点に議論の焦点を絞った方が良いのではないだろうか。15年の官邸介入疑惑の追及はおそらく時間の無駄になると思う。

 なお、国民の利益という観点からは、不正は本当に04年から17年までに限られるのかという点は再度検証が必要かもしれない。03年から04年にかけて東京都の大規模事業所の調査を全数調査から抽出調査に変更したのだが、それによって、調査対象が大規模事業所について、約1500カ所から500ヵ所へと、約1000ヵ所減ったはずだ。一方、東京都の報告書によれば、大規模を含めた全事業所の調査対象数は、両年とも3200~3300で大きく変化していない。その理由は、中規模事業者(もともと抽出調査)の抽出率を変えたため調査対象事業所の数が増えたということになっているのだが、厚労省に確認しても、そう判断した具体的根拠や中規模の調査対象事業所の実数も何か所増やしたのかも公表できないと言われた。

 もしかすると、03年以前も大規模事業所の調査対象数はかなり少なくて、過少推計になっていたのではないか。だから03年と04年の全調査対象事業所数が変わらなかったのではないか。さらに、元々大規模事業所の調査対象が少なかったから、04年に抽出調査に変えても前年とあまり大きな変更ではないと考え、復元は必要ないと判断したのではないかというような疑問が出てくる。

 このあたりは、野党やマスコミに追及してもらいたいのだが、これらの点についての新たな材料が出てこない限り、参議院予算委での本件についての議論は、決め手を欠くものになってしまうと予想される。

 逆に言えば、予算の議論の本丸であるアベノミクスの成果や今後の経済政策の議論を、今後の論戦の柱とすべきだ。あるいは、このところ失態続きの安倍総理のロシア外交やTAG(物品貿易協定)という呼称が偽りだったことがますます明らかになってきた日米通商交渉なども議論すれば面白いテーマになる。さらには、アベノミクス第3の矢が不発のまま日本の成長戦略が不在のままである間に、日本経済の世界での地位はどんどん後退し、いまや米中の先端技術をめぐる争いを傍観するしかない状況に陥っていることなどにこそ追及の矛先を向けるべきだ。これらのテーマについて議論すれば、野党にとっては、攻めどころ満載と言っても良い。

 そうした実質的な議論で野党の存在感を示すことができるのか。春の統一地方選、夏の参議院選に向けて、国民の関心は、そちらの方に移っていくのではないだろうか。統計不正問題だけであと1ヵ月の参院予算委の論戦を終わらせるのでは、安倍政権へのネガティブキャンペーンとしてはある程度の意味はあっても、追加的な効果は小さい。

 その結果、いつものお決まりのパターン――瞬間的に内閣支持率は下がるが、野党の支持率は横ばいで無党派層が増え、時間が経つと、内閣支持率は元に戻る――で終わってしまうことが危惧される。

 野党が本格的な政策論争で、国民に存在感を示すことを期待したい。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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