ここで、一つ気づくことがあるだろう。それは、衆院予算委の終盤で大きな議論となった、2015年に行われた対象事業所入れ替え方法に関する検討(中規模以下の事業所について定期的入れ替えを従来通り一度に全部入れ替えるか、3年程度の部分入れ替えの継続で行うローテーション方式とするかの検討)の途中で官邸が不当に介入したのではないかという論点が入っていないことだ。
実は、この点は、ほとんど意味のない議論であったというのが私の見方だ。
その理由は、「対象事業所を入れ替えると賃金の伸びが低くなることが多いから、それを嫌って官邸が、一度に変えるやり方をやめて部分入れ替えにしろと圧力をかけた」という野党側の主張に無理があるからだ。
事業所入れ替えの結果、数字が高くなるか低くなるかは事前にはわからない。だから野党の主張の前提が成り立たない。
また、毎勤統計の全部入れ替えとそれに伴う過去統計の修正という手法は、統計学的には非常に問題があり、統計ユーザーから見ても非常に使いにくいという批判は以前から強く、本来はもっと早く修正すべきだったのに、現場が面倒がってなかなかこれを行えなかったという点を無視している。その観点からは、動機が何であれ、官邸の介入は正しい方向性を持っていた。
その意味では、モリカケ問題が、国有地の不当払い下げや安倍総理の友人への不当な利益供与という利権絡みの不正であったのとは、全く性格が異なる。
実は、私も経済産業省で政策を立案したり、経済見通しを作ったりする際に、毎勤統計の振れが大きく、非常に困ったことがある。これを使って政策立案をしても、全部入れ替えで数字が変わり、全面的に分析をやり直すという事態が起きるのだ。厚労省に問い合わせても、細かい情報は教えてもらえず、ますます不信感が高まった。全部入れ替えで、過去にさかのぼって数字がガラッと変わるなどというやり方は早くやめて欲しいというのは、私のように経済政策を担当する官僚(と言っても多くは問題意識が非常に低いのだが)に共通する願いだったのだ。現に、私が一緒に仕事をしたことのある厚労省の幹部官僚さえも、「ひどい話ですよね」とあっけらかんと認めていたほどである。
そんなひどい問題なのであれば、どうしてそれを長期にわたって放置してきたのかと不思議に思うかもしれない。しかし、官僚の心理から見ると、こうした事態が放置されたのもごく自然なことだと感じる。