東京新聞ネット版(1月30日)にこんな見出しの記事が掲載された。
「米軍横田空域の通過、日本が管制 羽田新ルート、五輪前に増便へ」
昨年(2018年)10月29日の本コラム(「安倍総理は憲法9条改正より米軍と交渉し、東京五輪で航空機増便すべき」)で紹介したので、この件を知っている人は、この見出しを見て、「羽田の増便が実現するのか。それは良かったな」と思ったことだろう。
しかし、話はそう単純ではない。うわべだけ見ていると、いつものように騙されてしまう。今回は、この話が、決して喜べるような話ではないことを解説したい。
前述のコラムを読んだ方には、繰り返しになるが、知らないという方も多いと思うので、まず、ごく簡単に本件に関するおさらいをしておこう。
一言で言えば、この問題は日本政府が計画している羽田空港の国際線の増便が、日米地位協定のせいで、うまく進められないという話だった。
その原因は、日本は独立国なのに、首都圏上空の管制権を在日米軍に握られていることにある。これは、日米地位協定に基づく取り決めだ。横田空域(横田ラプコン)と呼ばれる空域は、東京都だけではなく、神奈川、埼玉、群馬、栃木、静岡、長野、山梨、新潟、福島にまたがり、最大高度7000メートルに及ぶ巨大な空域である。米軍がこの空域の管制権を握っており、米軍が頑なに民間機の飛行を拒否しているため、民間機はこの空域を避けて飛ばなければならない。
このため、羽田から西に向かう飛行機は、いったん千葉の方に出て、そこから大きく南に迂回したり、北陸方面に向かう場合は、千葉の方に出てから、急旋回しながら高度5000メートル以上に急上昇してこの空域を避けて通るという、理不尽なことになっている。そのための燃料費と時間を考えれば、壮大な無駄を強いられているわけだ。
今までは唯々諾々と米国の命令に従ってきた日本だが、ここへ来て、新たな問題が浮上した。それは、2020年の東京五輪・パラリンピックに備えて、羽田空港の国際便の発着数を拡大する必要が出てきたのだ。ところが、離着陸を従来の海上ルートに限定したままでは、国際線の発着数が最大年6万回のまま増やせない。政府は、これを年間9.9万回に増やすことを計画し、それに伴い、これまで避けてきた都心上空を飛行する新ルート案を策定した。この案では夕方の3時間に限り、天候や使用する滑走路によって羽田への飛来便が数分間、横田空域を通過することになるという(朝日新聞デジタル1月30日)。