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さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第69回はカンボジアのプノンペン駅から。
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これがカンボジア時間というものなのだろうか。さくさくとことが運ぶとは思っていないが、いくらなんでも……。日本人の僕はそう考えてしまう。
カンボジアの列車である。
カンボジアの鉄道は老朽化が進み、2009年、全面運休になった。アジア開発銀行から融資を受けて修復し、2011年には復旧することになっていた。
全面運休になったとき、カンボジア人たちは、アンコールビールを飲みながら、こういったものだった。
「これは永遠に走らんな」
しかし融資はすでに実行されていた。なにもしないということもない気がした。
しかし2011年になっても、列車が動きはじめたという話は、カンボジアからは聞こえてこなかった。そのうちに、僕も忘れてしまったのだが、2016年、唐突に、シアヌークビルからプノンペンまでの列車が動きはじめた。
5年遅れたが、復活させる意識はあったのだ。
ちょうどその頃、東南アジアの全鉄道路線を乗りつぶす……という酔狂な企画を進めていた。なぜこのタイミングで……と思ったが、動きはじめた以上、乗らざるを得ない。