こうして迎えた感動の初対面。テレビ画面で見る通り、江本さんはダンディーだった。すでに古希を過ぎているとは思えないほど若々しく、大病を克服したばかりだとは思えないほどエネルギッシュだった。今回の邂逅に向けて、僕は秘蔵の「プロ野球バカ本」コレクションから、80年代に江本さんが出版した一連の「10倍楽しむシリーズ」を持参。すると江本さんは「こんなに古いものはうちの事務所にも、もうないよ」と笑顔。実に和やかなムードのまま、イベントは始まったのだった。
「それまでの野球本は、幼少期に舟を漕いだり、新聞配達をしたりして足腰を鍛えた……とか、『○○選手物語』のような感動物語ばかりだったんです。でも、野球選手の実態はそんなものばかりだけじゃないんです。一生懸命練習もするけれど、陰では悪いこともすれば、羽目を外して遊んだりもする。そういう部分を書けば、プロ野球はもっと面白くなる。そんな思いを込めて出版したのが、『プロ野球を10倍楽しく見る方法』だったんです」
この発言に象徴されるように、江本さんは決して単なる露悪趣味で一連の本を出版したわけではなく、「野球を楽しく見ること」「ファンに新しい野球の魅力を伝えること」を意図していたのだということがよくわかるコメントが多かった。
■エモやんに負けぬよう、僕はこれからも書き続ける
実名を挙げて、さまざまな暴露をしたものの「誰からも訴えられなかった」という事実。それは江本さんの人徳だろう。また、「毎日球場に通っている以上、ネタ枯れするはずがない」と断言できるのは、日々の試合はもちろん、アメリカキャンプまで足を運んで取材をしている江本さんの日々の努力の賜物だろう。
「野球に対する感謝の気持ち。僕が本を書く動機にはそんな思いが常に背景にあるんです。だから今でも、球界のさまざまな問題点に対して、ダメなものはダメというし、間違っているものは間違っていると言い続けるんです」
80年代の全盛期には月に数千万単位で印税が振り込まれていたというエモやんが、今でも現役で書き続けているという事実。「文系野球のレジェンド」が、今でも現役で野球本を出版し続けているという現実が、僕は嬉しくてたまらない。「野球本」の書き手として、僕はまだまだ駆け出しの若造にすぎない。エモやんの開拓した「野球バカ本ロード」を、さらに強固なものとして後進につなぐべく、僕はこれからも「野球本」を書き続ける。そんな決意と覚悟を抱かせてくれた愛すべき夜。江本さんとの初邂逅は、僕にとって忘れられない一夜となったのだった。(文・長谷川晶一)