と、ここで私の前職の話をするのだが、昨年までシニア女性誌の編集長をしていた。50代以上をターゲットにしていたので、50代から80代まで幅広い読者と直接会う機会が多くあった。そこで感じたのは、いわゆるシニア女性は本音を言うのがあまり得意でない、ということだった。
その点、鈴さんは本音を言うことをためらわない。「夫ファースト」のヒロイン福子は、夫・萬平(長谷川博己)の世慣れなさもそのまま受け止める。だが、鈴さんは受け止めない。「萬平さんは発明家よ」という福子の台詞(しばしば出てくる)には、「私には、行き当たりばったりなだけに見えるけど」と返す。これはドラマの設定へのツッコミでもあり、視聴者の本音を代弁する役割が鈴さんには与えられていると思う。
萬平が始めた塩業で試作第一号ができた時、鈴さんは「でも茶色い。茶色い」と繰り返していた。「確かに塩なのに茶色いぞ」と思った私は、この台詞で鈴さんを完全に好きになった。本人の前で娘の夫への率直な感想を口にするって、今のシニアでも難しいとシニア女性誌の元編集長として思うからだ。
念のために書くならば、「本音」は「ぶっちゃけトーク」とは違う。ぶっちゃける必要はないが、本音を語ることは大切だと思う。それが昨今のシニアでも苦手なのは、それだけ「他人ファースト」が美徳とされてきたということだ。これも、シニア女性誌の編集長として気づいたことだ。
現代の女性でさえそうなのだ。ましてや鈴さんは、戦前戦後を生きている「武士の娘」。明治生まれで、ほぼ間違いないだろう。本音を語る明治生まれ女子。実にカッコいいぞ、と思う。
もうひとつ鈴さんの見逃せない点は、決断力があることだ。
塩がうまく作れるようになり、専売公社に商品を搬入するという肝心なところで、萬平はいかにも「儲けファースト」の世良(桐谷健太)にすべてを任せてしまう。案の定、世良は売上の半分を抜く。2回目の搬入では半分しか専売公社に売らず、残りを闇市で売ってしまう。