朝ドラ「まんぷく」の今井鈴さんから目が離せない。ヒロイン立花福子の母で、松坂慶子が演じている。
目が離せない理由はいろいろあるのだが、まずは「朝ドラの母」らしからぬ「母」であるところだ。
朝ドラ=正式名称「連続テレビ小説」というNHKの看板番組は、そもそも専業主婦をターゲットに1961年に始まっている。だが専業主婦の割合が減る昨今にあって、常識にとらわれない生き方を指向するヒロインが増えている(このあたりは拙著『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』で分析したので、読んでいただければ、と)
だが「ヒロインの母」となると、今も「娘ファースト」。タイプは少しずつ違っても、娘を思う優しさにあふれている。
ところが鈴さんは「娘ファースト」でない。これが実に珍しく、そして好もしい。
と、私は思っているのだが、賛成してくれる人は案外多くないようで、検索サイトで「まんぷく 鈴」と入力すると「嫌い」「うざい」「いらいら」という言葉が出てくる。
最近の嫌われ要因はどうやら、「子どもはまだ?」「いつになったら孫の顔を見せてくれるの?」という台詞のようだ。鈴さんはこれを頻繁に口にするが、今の時代ではかなりNGだろう。
だが当時の感覚では、さほどのNGではなかったと思う。要は鈴さん、思ったことはためらわず口にする人なのだ。戦後の食料不足の時期も自分の着物を売ることは断固抵抗するし、家事に勤しんでも誰もほめてくれないと家出するし、しかも家出先の近所のラーメン屋に迷惑をかけてるとちっとも思ってない。
朝ドラでは母が「娘ファースト」であることに理由は描かない。それが当たり前という認識なのだろう。その点「自分ファーストな人」はイレギュラーな存在だから、そうなる理由が描かれることが多い。鈴さんには「私は武士の娘です」という決め台詞が与えられた。
出自を誇りにしているから、品格をもって生きている。そのうえ大変な心配性でもあり、だから娘と衝突することもあるのだと「まんぷく」公式サイトが説明している。だが私は、「誇り」というNHKの公式見解とは違うキーワードがあると思っている。「本音」だ。