朝日新聞が3月に報じた「財務省による公文書の改ざんをめぐる一連のスクープ」が今年度の新聞協会賞に選ばれた。取材班が出版した『権力の「背信」――「森友・加計学園問題」スクープの現場』(朝日新聞出版)には、特報に至る記者たちの姿が描かれている。
民主主義の根幹を揺るがす不祥事はどんな経緯で明らかになったのか。朝日新聞東京社会部デスクとして取材に関わってきた羽根和人(現・大阪社会部デスク)が振り返る。
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2018年2月中旬以降、取材班は連日のように会議を重ねていた。ごく限られたメンバーによって進められてきた取材は、佳境を迎えようとしていた。
「財務省が、幹部ぐるみで公文書を改ざんしたようだ」。森友学園(大阪市)への国有地売却問題を追ってきた取材班は、その情報をつかんでから一歩ずつ事実に迫る取材を続けてきた。土地取引をめぐるどの文書の、どの部分が、どう書き換えられたのか。このころまでに取材班はほぼ特定していた。
「書き換え前の文書」の存在も確認した。だがそれは、実際に決裁を受けたものなのか。書き換えられたのは、国有地売却問題を朝日新聞が初めて報じた2017年2月9日以降なのか。会議で検証し、詰めの取材で疑問をつぶす。連日、その作業が繰り返された。
3月1日午後、財務省への最終取材が行われた。省内の個室で記者2人が省幹部と向き合った。取材結果を伝え、繰り返し説明を求めたが、幹部は「何を根拠に言っているかを示さない取材には答えない」と回答を避けた。最後は「不愉快だから帰れ」と言って自席のパソコンに向かい、問いかけに応じなくなった。
朝日新聞東京本社の5階の一室に籠もっていた取材班は2人からの報告を受け、「明日の朝刊に、特ダネとして出稿しよう」と決めた。それまでの取材で、決裁後に文書の内容が変わっていることは明確に裏付けられていた。「国会は大きく動くでしょうね」「大変なことになるだろう」。原稿の最終チェックをしながら、そんな会話が交わされた。