今季は同地区のボストン・レッドソックスとニューヨーク・ヤンキースという強豪チームの存在でプレーオフ進出はならなかったが、投打ともに他チームと比べると見劣りし“再建”のシーズンという位置づけながら90勝72敗と大きく勝ち越したのは大健闘といっていい。このような成功もあってか後に続くチームも現れ、大谷翔平の所属するロサンゼルス・エンゼルスもその一つで、9月11日のテキサス・レンジャーズ戦では投手8人の継投で完封勝利を記録。新たなトレンドの広がりを予感させている。
しかし、一方でこのような投手起用に反対する意見も上がっている。かつてサイ・ヤング賞を受賞するなどメジャーを代表する先発投手の一人ザック・グリンキー(ダイヤモンドバックス)も異論を唱える一人だ。グリンキーは「賢い方法」と戦術の効果を認めつつも「最も大きな問題は、この戦術では誰も本来の能力に見合った給料が支払われなくなる。イニングを投げさせてはもらえないからね。これじゃあ、投手がお金を稼げない」と、ピッチャーの待遇が下がることへの危機感を示していることを米スポーツ専門サイト『Bleacher Report』は伝えている。
また米『NBCスポーツ』も「強力な先発投手陣を持たないチームには効果的で、かつ“ケチ”で“搾取的”なフロントが節約するにはいい戦略」と批判を展開。さらに、「実際、開幕前には全体の1/3のチームが優勝はできないと諦めているものだが、そういったチームが投手陣を見捨てるのを許してはならない」と、グリンキー同様にピッチャーの扱いに不満を感じているようだ。
過去にはオークランド・アスレチックスが野手を打率、本塁打、打点などの主要な打撃成績ではなく、出塁率や四球の数などの“見えにくい部分”で選手を査定し、スター不在の限られた戦力でチームを勝利に導く“マネーボール”が有名となった。今年のレイズの戦術は投手版の“マネーボール”と形容してもいい戦略で、スター選手が存在しないチームが勝つための近道としは有効かもしれない。
しかし、先発投手が圧倒的な投球で試合を支配するのも野球の魅力でもあるし、いまだ有効なのも証明されている。例えば、今年のヒューストン・アストロズはサイ・ヤング右腕のジャスティン・バーランダーを筆頭に強力な先発ピッチャーを揃え、5人が2ケタ勝利をマーク。チーム防御率(3.11)はリーグトップで、ア・リーグ西地区で2連続の地区優勝の原動力となった。
今後もレイズが今シーズン採用した戦術は、投手力の劣るチームの方策の一つとなるのが予想できる。しかし、このような戦い方は野球本来の魅力が失われる可能性や、先述のように投手の待遇悪化につながりかねず、同時に批判も起こってくるのは間違いないだろう。