ところが、その後驚くようなニュースが飛び込んできた。フォーラムの全体会合で、プーチン大統領が、多数の参加者が見守る中で、「年末までに前提条件なしで平和条約を結ぼう」と安倍総理に呼びかけたのだ。私が見た映像では、虚を突かれた安倍総理は、苦笑いのような表情を浮かべるのが精いっぱいだったが、内心、これはまずいと思ったのではないだろうか。
プーチン氏の発言は、明らかに、まず平和条約を結んで、それから領土問題を議論しようという意味になるからだ。領土問題の棚上げだ。日本が平和条約の締結前に領土問題を解決するとしているのとは真逆の話になる。もちろん日本がこれを受け入れる義務はないが、プーチン氏がこの態度を撤回しない限り、領土問題の話を進めるのは困難になる。これまで、プーチン氏との信頼関係を築いたとしていた安倍総理としては、大観衆の前で大恥をかかされたという感じだ。また、今回の訪問全体としても、安倍総理よりも中国の習近平主席を厚遇する映像が世界中に配信されて、プーチンにフラれた哀れな安倍総理というイメージを世界に与えてしまった。外交上の大失態だと言っても良い。
せめてもの救いは、中国に負けた日本というトーンで厳しく報道したのは、日本では、TBSのニュース23くらいだったことだ。他局を見ていた人たちは、そんなことになっているとは、全く気付いていないだろう。
帰国後、安倍総理は、この大失態について、「平和条約が必要だという意欲が示されたのは間違いない。11、12月の首脳会談が重要になっていく」と言い訳をした。あの言葉は、プーチン大統領の平和条約への本気度を示すもので、日本としても歓迎すべきものだったというように聞こえる。しかし、もし本当に安倍総理がそう思ったのであれば、プーチン発言のあった現場で、拍手でこれを賞賛する態度を示していたはずだが、実際には固まってしまって、ただ苦笑いでその場を取り繕う安倍総理の姿が大きく映し出されていた。