応援演説をする安倍晋三元首相=2022年7月1日
応援演説をする安倍晋三元首相=2022年7月1日

 安倍晋三元首相(67)が銃撃され、亡くなった。国内だけではなく、海外の要人からも追悼の声があがる。いったい安倍晋三とはどういった人物だったのか。安倍氏が父・晋太郎氏の秘書官だった頃から知る、兄貴分の亀井静香氏(85)に話を聞いた。

【写真】安倍氏の遺体が乗った車を待つ高市早苗氏ら

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 晋三は優しくて、真面目なナイスガイだったけど、実はひょうきんなところもあってね。同期の荒井広幸(元衆議院議員)と仲が良くて、彼と組んで、宴会芸をよくやっていたよ。晋三が矢を射る役で、荒井がそれを受ける役で、人が飲んでいる座敷に入ってきて、笑いをとっていた。それでお流れ頂戴で、酒を飲んでいたよ。

 俺が政調会長だったとき、晋三を党の社会部会長にしたんだよ。部会が介護保険制度の法案を巡って揉めに揉めたときがあったんだが、そしたら、晋三が政調会室に飛び込んで来て、「政調会長が説明してくれないと収まりません!」って泣き言を言ってきた。仕方ないから、俺が行って、その場を収めたんだ。それで部屋に戻ると、5分もしないうちに晋三がまた来て、「また文句を言い始めた」というから、「ばかたれ! 部長が収められないのか」「政調会長が言ったあとの騒ぎなんか、無視しろ」って怒鳴ったんだ。兄貴分としてかわいがったよ。

 晋三は華麗な政治的な一族に生まれ、政治家としてキレイに咲いていた。晋太郎先生が首相になれなかったから、そのぶん晋三が長く首相の座に就こうと思ったところはあったんじゃないかな。それが散ってしまった。彼が先生の思いを継いだわけだから。政治的に大きな損失だと思うよ。

 今の政界は、 “濁った水”のようになっていると感じるよ。小選挙区制になったせいで、お互いに切磋琢磨しないから、一人の政治家として鍛えられない。何でも党の意向に縛られるようになっている。中選挙区制のときは、晋三のような生粋な骨太の政治家が出てきた。 

 晋三の死で、保守は拠りどころを失ったよ。いま危惧しているのは、国家とは何か、民族とは何かという視点がなくなっていること。晋三がいなくなって、日本の政治はどんどん弱くなっていくだろうね。

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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「親父と同じ年齢で逝ってしまうとは」