妻の給与明細みてワナワナ震え、嘔吐… 夫のアイデンティティー崩壊の瞬間

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家事・育児に損得勘定を持ち込むと、割り切れなさばかりが募る(撮影/鈴木愛子)

 仕事と育児とを両立する男性が少しずつ増えてきたようだが、その一方で「昭和の父親像」の残火を灯す男性も。男性の既得権益へのこだわりは、いきすぎると恐ろしい事態を招くこともあるようだ。

 家事と育児は妻に任せて、自分は仕事に専念する。子どもには広い背中を見せておけば、遊び相手にならなくても、憧れを抱いてくれる。そこにあるのは、極度に美化された昭和的父親像への、一方的なノスタルジーだ。

 恋バナ収集ユニット、桃山商事の清田隆之さんが、波紋を呼んだ牛乳石鹸のウェブCMに抱いた違和感は、「共働きらしいのに、男性目線で捉えられた家事・育児のヤバすぎるディテール」と、「損をしたくないという男性側の強烈で矮小な意識」だった。

「家事と育児は女性の仕事だったハズなのに、いまでは義務として降りかかる。仕事の時間も趣味の時間も削られて、オレはものすごく損をしてるんじゃないか。あの男性には、親世代に対する嫉妬に近い感情もあったように感じます」(清田さん)

 女性からさんざん酷評されたこのCMだが、「気持ちは若干わかる」とする男性は少なからずいた。清田さん自身も、「専業主婦の家庭に育ったから、昭和的な父親像との間で揺れ動く男性の気持ちは、わからないでもない」。千葉商科大学専任講師の常見陽平さんも、「5%程度ならわかる」と答えた。自身の中に「仕事一本やりの父親像」はないが、「ひとかどの人物になって、妻と娘を守りたいという、昭和的な発想はどこかにある」からだ。

 自分のフィールドでは、負けたくない。勝負にこだわる男性心理は本能に近く、実は多くの男性にとって自明のことだ。「エリートなら肩書や収入、オタクならその分野の知識量、特に女性の前では負けたくないと考えるのです」(清田さん)

 それがよすがになると、負けを悟った瞬間、自我が崩壊する。桃山商事は、夫のモラハラに悩む妻からこんな相談を受けた。

 夫は30代半ば、妻はその3歳下。会社の先輩・後輩だったが、結婚すると夫は家庭で妻に威張り散らし、口答えも許さない。

「男女の行き違いの範疇を超えていると心配になりました」(同)

 しばらく後だ。妻が置き忘れた給与明細を夫は見てしまった。

 そこには、先輩の自分より遥かに高い額面が記入されていた。

「彼女は真面目で業績もよかったんです。夫はワナワナと震え出し、頭に爪を突き立て、しまいに嘔吐した。何重にも敗北を感じ、アイデンティティーが崩壊したのでしょう。彼女には対策しようがなく夫が変わるしかなかったが、変われなかった。最終的に彼女は離婚できたようで、本当によかったです」(同)

 共働き家庭が増える一方で、妻は専業主婦がいい、という価値観の男女もいる。ところが、その価値観に環境や条件が見合わないと、苦しい事態も起こる。

「つらいのは、家庭を支えるだけの収入や同じ価値観の相手が得られない場合。そういう男性は『どうせ収入目当て』『イケメンならいいんだろ』と、なぜか女性に不満を向けがち。偏った男尊女卑的思想の背景には、『不当に損をしている』という、せせこましい既得権益へのこだわりが見え隠れします」(同)

(編集部・熊澤志保)

AERA 2017年12月4日号より抜粋