ただ、国が定めるのは標準時数です。実際の教育課程の編成は学校に委ねられていますから、「標準」である以上、学校は授業時数に幅をもたせることができるはずですが、いまは「最低基準」になっていると大森さんは指摘します。

「2003年の文部科学省の通知で、標準時数の解釈変更が行われたことが理由です」

 その通知には「標準を上回る適切な指導時間を確保」との文言があります。これによって必要以上に時数を積み増しする風潮が教育現場を覆うようになったのです。

「全国学力テスト」が教育現場のプレッシャーに

 さらに文科省が実施している小6と中3全員を対象とした全国学力テストが教育現場に対する圧力になっています。

「全国学力テストは教育課程の定着具合をみるために行われるものです。本来、抽出調査で十分なのですが、全国規模のテストによって地域間競争、学校間競争が起きています。自治体や学校には学力を下げないよう、授業時数を積み増す圧力がかかっています。つまり、国と学校による二重の積み増しによって子どもたちの負担は増しているのです」(大森さん)

 また、学校では年間35週授業が行われますから、年間授業時数が35の倍数であれば年間決まった時間割がつくれるのですが、多くの教科では35の倍数ではないため、時間割は週、月によって変わることになります。このために子どもたちは忘れ物が多くなっているといわれています。

小学5年生の標準時数の変遷(出典:東京学芸大学・大森直樹研究室)

 授業時数だけでなく、授業内容も「思考力、判断力、表現力」の育成が重視されるようになり、教科書は厚くなっています。一般社団法人教科書協会の「教科書発行の現状と課題」によると、2024(令和6)年度の小学生の教科書のページ数は、2005(平成17)年度と比較して、約1.8倍も増えています。子どもたちは厚く重い教科書を学校に置いて帰る「置き勉」を余儀なくされています。

子どもがSOSを発する「休み時間」「放課後」が奪われている

 こうしたカリキュラム・オーバーロードによって負担が増加するなか、子どもたちには6時間目の授業になると疲れ、集中力が落ちるなどの影響が出ているうえに、教員も翌日の授業準備の時間がとれない現実があります。不登校増加の一因になっているのではないかと推測する教員もいます。その弊害について、大森さんはさらにこう指摘します。

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