「福籠」では浅草開化楼の麺にこだわる。モチモチした食感も評判を呼んでいる(筆者撮影)
「福籠」では浅草開化楼の麺にこだわる。モチモチした食感も評判を呼んでいる(筆者撮影)

 その代わり、麺はオリジナルにこだわり、東京・浅草の老舗「浅草開化楼」の麺を採用している。以前、「六厘舎(ろくりんしゃ)」のつけ麺を食べたときにその麺のおいしさに驚き、「すみれ」とは違う麺で作ってみようと思い立ったのだという。

「さっそく開化楼さんにサンプルを作ってもらったら、驚くほどうまくはまったんです。うちの大きな個性としてこの麺を採用しました。創業当初は『これは札幌の麺じゃない』とさんざん言われましたが、続けていくことで定着していきました」(畑谷さん)

 札幌のプリプリした麺に比べ、モチモチ感が特徴で、それが新しさを生んだ。濃厚な味噌スープと麺が主張し合って、力強い一杯に仕上がっている。14年に入ってから、じょじょに口コミが広がり、雑誌でも紹介されるようになる。常連も出てきて、少しずつ理想の形に近づいてきた。今でこそ都内に「すみれ」出身の店は増えてきたが、「福籠」はその先駆けとしてこれからも躍進していく。

畑谷さんの個性と「すみれ」の製法が合わさった独自の一杯(筆者撮影)
畑谷さんの個性と「すみれ」の製法が合わさった独自の一杯(筆者撮影)

「けいすけ」の竹田さんは、もともと味噌ラーメンが好きと言いながらも「福籠」のラーメンを高く評価する。

「熟成の卵麺ではなく開化楼の麺を使ったのは本当に面白い発想だと思います。随所に店主のこだわりを感じますね。『すみれ』へのリスペクトがありつつ個性もある。当たり前を疑っている店だと思います」(竹田さん)

「福籠」畑谷さんは、次々とアイデアを具現化する竹田さんの素晴らしさをこう語る。

「自分の力でゼロから味を作り上げているのは本当にすごいと思います。何店舗、何種類もというのがまたすごい。
センスがないとなかなか難しいことだと思います」

 経歴は異なる二人だが、自分のオンリーワンの一杯を目指すという方向性は同じだ。個性のあるここでしか食べられない一杯にこそ、ラーメンの価値を感じる。(ラーメンライター・井手隊長)

○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて19年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho

AERAオンライン限定記事

著者プロフィールを見る
井手隊長

井手隊長

井手隊長(いでたいちょう)/全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。Yahoo!ニュース、東洋経済オンライン、AERA dot.など年間100本以上の記事を執筆。その他、テレビ番組出演・監修、イベントMCなどで活躍中。ミュージシャンとしてはサザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」などで活動中。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

井手隊長の記事一覧はこちら