食材や調理法にこだわったRamen Free Birdsのスペシャル醤油ラーメンは一杯1000円(筆者撮影)
食材や調理法にこだわったRamen Free Birdsのスペシャル醤油ラーメンは一杯1000円(筆者撮影)

「ラーメンののぼり旗や看板を出した方がいいとアドバイスもいただきましたが、せっかくのアメリカンな空間が台無しになってしまうと思って出しませんでした。暖簾もありませんし、かなり苦戦しましたね」(宮本さん)

 しかし、20年以上修行したラーメンの味は確かだった。オープン時は気楽に作りたいと思っていたが、いざラーメンを作り始めると凝り性が顔を出す。食材や調理法にはこだわり、奥行きのある味わいを演出。幅広い年齢層に向けて、ホッとする味わいのラーメンを作り上げたい。こうしたこだわりと美味しさが口コミで広がり、お客さんが少しずつ増えていく。気づくと本郷台を代表する人気店になっていた。

 業界最高権威といわれる「TRYラーメン大賞2018-2019」で新人賞しょうゆ部門7位、しお部門8位にランクイン。大好きなアメリカンな空間で宮本さんは笑顔でラーメンを作っている。

店内には宮本店主のこだわりの雑貨も並べられている(筆者撮影)
店内には宮本店主のこだわりの雑貨も並べられている(筆者撮影)

「三ん寅」菅原店主は、宮本さんが羨ましいという。

「20年以上、3歩下がったところでお店を支えてきた宮本さんが、大好きなものに囲まれて一気に弾けた感じがしているんです。店の外観をひと目見た時、『やりたいお店がやっとできたんだ!』と嬉しくなりました。同じ店に長い間勤めて独立したという意味では境遇が似ていますが、『すみれ』テイストをそのままに独立した自分とは真逆でビックリしました。店はアメリカンですが、ラーメンは実に優しい一杯。宮本さんの人間性が出ています」(菅原さん)

宮本さんも菅原さんのラーメンとその姿勢を評価している。

「名店『すみれ』に18年勤め、責任を果たして独立するというのはなかなかできることではありません。菅原さんはとても真面目で、味に対する探求心も計り知れないものがあります。基本がしっかりしていて、巷のラーメンとは比べ物にならない熟練の技が光っています。『すみれ』を基本にしながらオリジナリティの高い見事なラーメンだと思います」(宮本さん)

 同じ店でしっかり修行するというのもラーメン職人のひとつの形。長年の修行で、ラーメン作りだけでなく店作りや社員教育などすべての基礎を学ぶことができる。それを糧に、自分の店でさらなる美味しさを追求していくことは、店主としての理想といえるだろう。(ラーメンライター・井手隊長)

○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて19年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho

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井手隊長

井手隊長

井手隊長(いでたいちょう)/全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。Yahoo!ニュース、東洋経済オンライン、AERA dot.など年間100本以上の記事を執筆。その他、テレビ番組出演・監修、イベントMCなどで活躍中。ミュージシャンとしてはサザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」などで活動中。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

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