独立するとき、「すみれ」の村中社長から暖簾が届けられた「のれん」(筆者撮影)
独立するとき、「すみれ」の村中社長から暖簾が届けられた「のれん」(筆者撮影)

「逃げたいのはお前だけじゃないんだぞ。俺だって逃げたい時はあるんだ。まぁ、戻ってきてくれてよかったわ」

 そう笑いながら、菅原さんの背中をポンと押してくれたという。この先はもう、社長を裏切ってガッカリさせるようなことはしないと、ここで一人前になることを決意した。

「すみれ」の味噌に惚れ込んだ菅原さんは、「三ん寅」でも味噌をメインに打ち出している。だが、都内に味噌ラーメンをメインとするお店は意外と少ない。東京では醤油ラーメンが圧倒的に多い。この20年ほどで豚骨ラーメンは増えたものの、味噌ラーメンはブーム化する気配がない。その理由を菅原さんはこう見ている。

「味噌は人気もあるしファンも多くいますが、ちゃんと作ろうとするとかなり大変。似たようなものは簡単に作れますが、“香り”がなかなか出ないんです」

「三ん寅」で菅原さんがこだわるのは、味噌の香ばしさだ。中華鍋で味噌とスープを焼きながら作るが、焼きすぎたり火を入れすぎたりすると、香りが飛んでエグミが出る。逆に焼きが甘いと香りやコク、ビター感が出ず、しょっぱさが際立ってしまう。加減を数字で測ることはできず、五感をフルに使い、おたまから手に伝わる感触で判断して仕上げているという。この絶妙な加減は熟練の技の成すものである。

「三ん寅」の味噌ラーメンには店主のこだわりが詰まっている(筆者撮影)
「三ん寅」の味噌ラーメンには店主のこだわりが詰まっている(筆者撮影)

「味噌はメインストリームでなくてもいいんです。ラーメンの人気があがっていくとともに、本格的な味噌ラーメンにはレア感が出てきますから」(菅原さん)

 都内にいながらにして美味しい札幌味噌ラーメンが食べられるのは嬉しい。「三ん寅」のこれからにも、さらに期待が高まる。そんな菅原さんが愛するラーメンは、横浜・本郷台で提供される、店主の人柄がにじみ出た優しい味わいの醤油ラーメンだった。

■あまりにアメリカンなラーメン店 外観にこだわった理由

 JR根岸線の本郷台駅から徒歩10分。閑静な住宅街の中にアメリカンガレージのような店がある。「Ramen Free Birds(ラーメン フリーバーズ)」は、その外観とは裏腹に、素材の旨味を生かしたじんわりと美味しい醤油ラーメンが人気だ。

 店主の宮本智さん(54)は大学を卒業後、無印良品(現在の株式会社良品計画)に入社する。29歳まで会社員生活を送っていたが、肌に合わない感覚がずっとあり、手に職を付けたいと思い始める。そんな時に、ふと仕事帰りに食べているラーメンを身近に感じ、ラーメン屋になろうと決意する。

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ラーメン店の門をたたくも…