ハイポジ、ダビング、レタリングシート。この言葉にピンときたら、きっと“いい年”だろう。サブスクで「聴き放題」が主流の時代に、かつて熱中したカセットテープが、再び人気になっている。AERA2020年2月10日号ではカセットを特集。専門店の店主やスチャダラパーのANIさんらが語る「カセットの魅力」とは。
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大きな窓から差し込む光が、テーブルの上にずらりと並んだプラスチックケースに反射する。
東京・中目黒に店を構える「waltz(ワルツ)」。約6千本のカセットテープを販売する専門店だ。ワゴンにドサッと詰め込むジャンク品のような扱いはせず、特注のテーブルと専用棚に、きれいに陳列する。
並んでいるのはビートルズやボブ・ディランのような王道から、若い世代にも人気のビョークやビリー・アイリッシュなど幅広い。店主の角田(つのだ)太郎さん(50)が各国のレーベルと取引して輸入した、選りすぐりのミュージックテープばかりだ。
「サブスク主流」なのに売れる
商品は中古ばかりではない。新品のカセットも多く並んでいる。往年のカセットファンには半ば信じられないかもしれないが、じつは近年、カセットの売れ行きが好調だ。米調査会社ニールセン・ミュージックによると、2018年に全米でのカセットの売り上げが前年の約18万本から約22万本にまで上昇し、前年比23%増となっている。
たかが20万本前後と思われるかもしれない。が、ネットを通じていわば「定額聴き放題」のサブスクリプション型サービスが主流の時代に、モノでこれだけの成長は目覚ましいといえよう。15年に開店したワルツも潮流に乗り、オープン以降「4年連続の黒字」と角田さんは言う。
実店舗にこだわりたいと、当初はオンラインストアを作らなかった。時代に逆行しているかのようだが、角田さんがオープン数カ月前まで働いていたのは、ネット流通の巨人アマゾンジャパン。音楽・映像販売事業などを手がけた経験から、実店舗で音楽ソフトを売ることは「成り立たない」と感じていた。
「ですが、インターネットに頼らずにどこまでビジネスができるかを試したい気持ちがあったんです」(角田さん)