聴き放題の時代に「カセットテープ」の波 不便で面倒なのに人気の理由

2020/02/10 11:30

東京・中目黒のwaltzには、音楽やファッション業界関係者も多く訪れる。Gucciにインスピレーションを与える場所「グッチ プレイス」にも選ばれた(撮影/写真部・小黒冴夏)
東京・中目黒のwaltzには、音楽やファッション業界関係者も多く訪れる。Gucciにインスピレーションを与える場所「グッチ プレイス」にも選ばれた(撮影/写真部・小黒冴夏)

 ハイポジ、ダビング、レタリングシート。この言葉にピンときたら、きっと“いい年”だろう。サブスクで「聴き放題」が主流の時代に、かつて熱中したカセットテープが、再び人気になっている。AERA2020年2月10日号ではカセットを特集。専門店の店主やスチャダラパーのANIさんらが語る「カセットの魅力」とは。

【写真】あのレアテープも! 魅惑のカセットテープの世界はこちら

*  *  *

 大きな窓から差し込む光が、テーブルの上にずらりと並んだプラスチックケースに反射する。

 東京・中目黒に店を構える「waltz(ワルツ)」。約6千本のカセットテープを販売する専門店だ。ワゴンにドサッと詰め込むジャンク品のような扱いはせず、特注のテーブルと専用棚に、きれいに陳列する。

 並んでいるのはビートルズやボブ・ディランのような王道から、若い世代にも人気のビョークやビリー・アイリッシュなど幅広い。店主の角田(つのだ)太郎さん(50)が各国のレーベルと取引して輸入した、選りすぐりのミュージックテープばかりだ。

新譜には一つひとつキャプションがつき、どの国のどんな音楽かがわかる(撮影/写真部・小黒冴夏)
新譜には一つひとつキャプションがつき、どの国のどんな音楽かがわかる(撮影/写真部・小黒冴夏)

「サブスク主流」なのに売れる

 商品は中古ばかりではない。新品のカセットも多く並んでいる。往年のカセットファンには半ば信じられないかもしれないが、じつは近年、カセットの売れ行きが好調だ。米調査会社ニールセン・ミュージックによると、2018年に全米でのカセットの売り上げが前年の約18万本から約22万本にまで上昇し、前年比23%増となっている。

 たかが20万本前後と思われるかもしれない。が、ネットを通じていわば「定額聴き放題」のサブスクリプション型サービスが主流の時代に、モノでこれだけの成長は目覚ましいといえよう。15年に開店したワルツも潮流に乗り、オープン以降「4年連続の黒字」と角田さんは言う。

 実店舗にこだわりたいと、当初はオンラインストアを作らなかった。時代に逆行しているかのようだが、角田さんがオープン数カ月前まで働いていたのは、ネット流通の巨人アマゾンジャパン。音楽・映像販売事業などを手がけた経験から、実店舗で音楽ソフトを売ることは「成り立たない」と感じていた。

「ですが、インターネットに頼らずにどこまでビジネスができるかを試したい気持ちがあったんです」(角田さん)

NEXT

初めての音楽体験

1 2 3 4

あわせて読みたい

  • スチャダラパーANIが語るカセットテープの魅力「“終わり”があるからしっくりくる」

    スチャダラパーANIが語るカセットテープの魅力「“終わり”があるからしっくりくる」

    AERA

    2/10

    『11月16日はなんの日?』録音文化の日、ふたたび注目を集める「カセットテープ」の魅力

    『11月16日はなんの日?』録音文化の日、ふたたび注目を集める「カセットテープ」の魅力

    Billboard JAPAN

    11/16

  • 奥田民生、オリジナルモデルのラジカセ発売

    奥田民生、オリジナルモデルのラジカセ発売

    Billboard JAPAN

    6/15

    90分でも60分でもなく…「10分間のカセットテープ」が今一番売れているワケ

    90分でも60分でもなく…「10分間のカセットテープ」が今一番売れているワケ

    プレジデントオンライン

    3/8

  • 僕の音楽入手方法の変遷史

    僕の音楽入手方法の変遷史

    6/18

別の視点で考える

特集をすべて見る

この人と一緒に考える

コラムをすべて見る

カテゴリから探す