waltzでは、70~80年代製のラジカセを修理して販売する。「昔のオーディオはすごくレベルが高い」と角田さん(撮影/写真部・小黒冴夏)
waltzでは、70~80年代製のラジカセを修理して販売する。「昔のオーディオはすごくレベルが高い」と角田さん(撮影/写真部・小黒冴夏)

 訪れる客層は、カセット全盛期を知っている中高年はもちろん、カセットに触れたことのない10代も多い。だが角田さんは、世代は違えど「共通点がある」と言い、こう続ける。

「若い人にとってカセットは新しいメディア。年配の方の興味は、当時、手が出せなかったハイエンドのラジカセ。どちらも初めての音楽体験なんです。ノスタルジーというより、ある意味、現在進行形のカルチャーとして紹介したいんです」

「テープに録音」することの魅力

 ラジカセに代表されるカセット再生機も人気が高まっている。

 東京・秋葉原の商業施設「シークベース」。カメラやオーディオの好事家が集まるこのビルの一角に、家電蒐集家の松崎順一さん(59)は、期間限定でラジカセの出張販売所をオープンした。中古品ではあるが、松崎さんの工房でメンテナンスを施し、整備済み品として販売している。

 店内で古いラジカセをじっとながめていた70代の男性いわく、

「きちんと修理された当時のソニーならどれでもいい」

 と鼻息も荒いままに8万円もするデッキを、さっと購入した。

松崎さんがしっかりと検品している(撮影/写真部・張溢文)
松崎さんがしっかりと検品している(撮影/写真部・張溢文)

 また、松崎さんによれば、アルバムのように楽曲が収録されたミュージックテープだけでなく、懐かしの「生カセットテープ」ファンが増えているという。

 目的は「録音」だ。

「録音なんて死語に近い言葉でした。それが今や、音楽をあえて録音して、ラジカセなどで聴いてみたいと生テープを買う若い女性が増えています」

 思い出してほしい。かつてはテープからテープにダビングしたり、CDをテープに録音したりして楽しんだ。録音したテープは、レタリングシートを使ってラベルをつくり、自分にしかないテープができた。だが、パソコンが普及すると音楽はデジタルになり、データのままiPod、そしてスマホなどに入れて聴く。気づけば「テープに録音」する文化は消えていた。

 だが、近年発売されるようになった生テープは、モノトーンが主流だったカセットハーフ(筐体)がピンクや青、黄色といったカラフルなものになったり、デザイナーが描き下ろすイラストが施されていたり、所有欲をくすぐる。

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