梅雨の晴れ間の強い日差しを受けて、早稲田停留所で折り返しを待つ39系統厩橋行きの都電。木造家屋が林立する昭和の風情は二度と戻ってこない。(撮影/諸河久:1963年6月30日)
梅雨の晴れ間の強い日差しを受けて、早稲田停留所で折り返しを待つ39系統厩橋行きの都電。木造家屋が林立する昭和の風情は二度と戻ってこない。(撮影/諸河久:1963年6月30日)

 2020年の五輪に向けて、東京は変化を続けている。前回の東京五輪が開かれた1960年代、都民の足であった「都電」を撮り続けた鉄道写真家の諸河久さんに、貴重な写真とともに当時を振り返ってもらう連載「路面電車がみつめた50年前のTOKYO」。今回は「都の西北~」と校歌に謳われる早稲田大学の街「早稲田」を走る都電だ。

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 都電の早稲田停留所は都電荒川線のターミナルとして、現在も多くの乗客に利用されている。この停留所で下車して南側に延びる大隈通りやグランド坂通りを行けば、冠たる「早稲田大学」の構内は真近である。広大な早稲田大学キャンパスの西側に位置する甘泉園公園を散策すれば「太田道潅 駒繁の松」や赤穂浪士の一人である「堀部安兵衛の碑」も見られる。

■早稲田に息づく昭和の風情

 写真は旧早稲田停留所から面影橋方向を撮影した。直射日光が眩しい梅雨の晴れ間に撮影した一コマで、厩橋に折り返す39系統と、その先を走る32系統荒川車庫行き、遠くには15系統高田馬場行きの都電も写っている。

1983年に新目白通りが竣工し、旧線の北側に移設された新線を三ノ輪橋に向う荒川線の都電。早稲田停留所(撮影/諸河久:2019年6月1日)
1983年に新目白通りが竣工し、旧線の北側に移設された新線を三ノ輪橋に向う荒川線の都電。早稲田停留所(撮影/諸河久:2019年6月1日)

 当時、九段下から西下する目白通りは、この手前の早稲田交差点から先は道が無く、ここを左に折れてグランド坂を上り、戸塚方面の早稲田通りに接続していた。したがって、早稲田からの都電路線は専用軌道と一部が併用軌道で、面影橋停留所を越して明治通りまで続いていた。それにしても、近代的な早稲田キャンパスの近隣に、この写真のような「昭和の風情」が息づいていたのには驚きを感じる。39系統はあと一車身ほど前進して、画面中央の分岐器で折り返していた。そのため、安全地帯の縁石が電車のオーバーハングの分だけ右側に寄っている。

 別のカットは同じ撮影地から東側にカメラを向けて、早稲田停留所に到着する39系統を写した。飯田橋停留所から神田川の流れに沿って走ってきた都電・江戸川線の終点だ。

前カットと同じ位置から東側にカメラを向けると、厩橋から到着した39系統の都電が御徒町行きの方向幕を表示して停車していた。都電の左側の歩行者の少し奥に、32系統荒川車庫前行きが折り返す分岐器が見える。(撮影/諸河久:2019年6月1日)
前カットと同じ位置から東側にカメラを向けると、厩橋から到着した39系統の都電が御徒町行きの方向幕を表示して停車していた。都電の左側の歩行者の少し奥に、32系統荒川車庫前行きが折り返す分岐器が見える。(撮影/諸河久:2019年6月1日)

 左側の歩行者の少し先に折り返しの分岐器が見えるが、ここで荒川車庫前から来た32系統が折り返して、右側のホーム然とした安全地帯で大塚・王子方面の乗客を乗せていた。

■王子電気軌道の早稲田駅舎

 江戸川線と早稲田で接続する早稲田線は王子電気軌道が敷設したもので、市電・江戸川線の終点である早稲田停留所と連絡するために、1930年にお隣の面影橋から延伸された。終端の早稲田には木造平屋建ての駅舎が建設され、出改札業務が行われていた。

 1942年の市電統合後に駅舎は解体されたが、眼と鼻の先の江戸川線早稲田停留所と軌道がつながることは無かった。ちなみに1944年の早稲田を巡る運転系統は、14系統(早稲田~不動尊前)、15系統(早稲田~御徒町三丁目)、32系統(王子駅前~早稲田)の三系統だった。

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諸河久

諸河久

諸河 久(もろかわ・ひさし)/1947年生まれ。東京都出身。カメラマン。日本大学経済学部、東京写真専門学院(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。鉄道雑誌のスタッフを経てフリーカメラマンに。「諸河 久フォト・オフィス」を主宰。公益社団法人「日本写真家協会」会員、「桜門鉄遊会」代表幹事。著書に「オリエント・エクスプレス」(保育社)、「都電の消えた街」(大正出版)「モノクロームの東京都電」(イカロス出版)など。「AERA dot.」での連載のなかから筆者が厳選して1冊にまとめた書籍路面電車がみつめた50年 写真で振り返る東京風情(天夢人)が絶賛発売中。

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