※写真はイメージ(gettyimages)
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 いまやその話題を聞かぬ日はない「生成AI」。革新的とされる技術は「学びの場」の変革も促す。どう向き合い、メリットを生かすか。「ChatGPT(チャットGPT)」を推奨する大学の教育現場にヒントがあった。AERA 2023年7月10日号の記事から紹介する。

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 チャットGPTを日々の授業に生かしている例もある。東洋大学情報連携学部では今年4月から、チャットGPTに使われている最新言語モデル「GPT-4」を活用した独自の学内システムを開発し、約1500人の学生全員に利用を推奨している。学部長の坂村健さんは「チャットGPTというサービスは通さず、『スラック』という学部内のコミュニケーションツールを通すシステムなので、大学がお金を払って学生は無料で使えるんです」と話す。

坂村健(さかむら・けん)/1951年生まれ。東洋大学情報連携学部(INIAD)学部長。工学博士。東京大学名誉教授。著書に『DXとは何か』など(写真:本人提供)
坂村健(さかむら・けん)/1951年生まれ。東洋大学情報連携学部(INIAD)学部長。工学博士。東京大学名誉教授。著書に『DXとは何か』など(写真:本人提供)

 学生がチャットGPTを使うことに懸念の声もあるなか、なぜむしろ推奨するのか。坂村さんは「規制をかける必要はまったくありません」と言い切る。

「知的所有権や著作権のことはもちろん重要。でも、他人が作ったものそっくりをリポートに書いて提出するなんて、AIに頼もうがお父さんや友だちに書いてもらおうが、ネットからのコピーでも、昔から『いけないこと』に変わりはない。将棋藤井聡太さんだってAIを相手に日々研鑽して能力を高め、人間相手の対局のときは自分の力で戦っている。それとどこが違うのでしょう。自分の能力を高めたいと思うなら、AIだって何だって貪欲に使っていいんです」

 チャットGPTが何より優れている点は、「対話により学びを深めてくれることだ」と坂村さんは言う。しかも、無限に付き合ってくれる。大学の先生ではそうはいかない。

「だから藤井さんも好きなだけ将棋の腕を磨けるんです。チャットGPTは学生にとって、『しょっちゅう相談に乗ってくれる相手がいる』ということ。またチャットGPTの出力は100%正しいわけじゃない。ハルシネーションといって、事実と異なる内容や無関係な出力がされる幻想もある。『人間みたいなモデル』と言われるゆえんですが、だからこそ、使うことで人間と対話する訓練にもなると思います」

 東洋大学の学祖は哲学者の井上円了(えんりょう)だ。坂村さんは情報連携学部の1年生の最初の講義を哲学から始めるが、ヘーゲルの弁証法について生成AIが出してくれる具体例や解説で授業を進めることも。学生からは、生成AIとの対話でヘーゲルの弁証法が初めて理解できた、という声も多いという。

「この先、生成AIは日常生活で普通に使うものになる。だったらいち早く、どう使えばうまくいくのかを習得させ、未来の道具を使いこなす新しい学生を送り出したい」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2023年7月10日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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