近年、全米の図書館に対して「禁書」を求める活動が活発化している。標的は「LGBTQ」「黒人」「性自認」などをテーマにした書籍だ。AERA 2023年6月12日号の記事を紹介する。
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いま、全米の学校の図書室や公立図書館を標的にした「禁書」の動きが激化している。
フロリダやテキサスなどの州の小中学校に子どもを通わせている保守派の保護者たちが中心となり、「LGBTQ」や「黒人」や「性自認」などをテーマとした書籍を学校の図書室に置かないでくれと教育委員会に訴え、排除する動きが目立っている。
例えば黒人作家のジョージ・M・ジョンソン氏が書いた『All Boys Aren’t Blue』という10代の読者に向けた自叙伝エッセイは「全米禁書リスト」の上から2番目で、全米15州以上の学校の図書室から排除されている。
思春期に異性に興味を抱き始める周囲の男の子たちと自分は何かが違うと感じていた少年が、「自分はクィア(性的少数者)だ」と認識すると共に、黒人としてのアイデンティティーを強く求めて成長していく過程を描いた作品だ。鮮やかな花飾りを頭につけた黒人男性のイラストが本の表紙に描かれている。
ジョンソン氏本人が少年時代に男性から性的被害を受けた実体験や、その後の大学時代の性体験の描写が生々しすぎると一部の保護者たちに糾弾され、「同性同士がセックスする描写がある作品を子どもたちに読ませるわけにはいかない」と、2022年には全米86以上の図書館や図書室あてに保護者などからこの本の排除要請が提出された。
「ずっと長い間、普通じゃない人間、存在しないはずの人間と扱われてきた側の体験を伝えることで、自分はひとりじゃない、と若い読者に感じてほしかった」とジョンソン氏は、ロサンゼルスで4月に開催されたブックフェアで登壇して発言した。
「この本を出版して一番驚いたのは、60代以上の年齢の人々が『自分が体験したことが描かれている本に初めて出合った』と告白してくれたこと。彼らがいかに長い間孤独の中で生きてきたかを思い、胸が詰まった」(ジョンソン氏)