洞窟のようなサムタイムの店内は仕事帰りの会社員でにぎわう。若いジャズファンのほか、最近は外国人観光客も増えている(撮影/写真映像部・上田泰世)
洞窟のようなサムタイムの店内は仕事帰りの会社員でにぎわう。若いジャズファンのほか、最近は外国人観光客も増えている(撮影/写真映像部・上田泰世)

「知的なおやじの音楽」と思われていたジャズの世界に、若い世代のミュージシャンやリスナーが増えている。時代とともに進化してきた「自由な音楽」が再び変わりつつある。背景をたどった。AERA 2023年5月1-8日合併号より紹介する。

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 薄暗い階段で地下に下りると、ピアノの音が聴こえてくる。

 東京・吉祥寺に店を構えるジャズクラブ「サムタイム」。1975年の創業以来、“生のジャズ”を届けている。この日はピアノトリオによる演奏で、部屋の中央にはピアノやベースが並び、その周りをぐるりとテーブルが囲む。鉄骨むき出しの工場のような店内だが、どこか温かみもある不思議な空間が広がっている。

「映画のセットみたいでしょう。生のジャズの社交場を作りたかったんです」

 そう話すのは、店長の宇根裕子さん。38年前にアルバイトで入店してから、ずっと店を見続けてきた。席数は約80席。お気に入りの席を予約する常連客も多いという。

■ブルージャイアント系

 そんなサムタイムに最近新しいファンが増えている。宇根さんは言う。

「この数カ月ほど“ブルージャイアント系”のお客さんが来るようになったんです」

 往年のジャズファンにまじって、初めてジャズクラブに来たという若い世代を見かけることが増えた。そのきっかけになったのが、2月に公開されたアニメ映画「BLUE GIANT」だ。

 ジャズに魅せられ、世界一のジャズプレーヤーを目指す青年の姿を描いた漫画が原作。映画化にあたり、日本を代表するジャズピアニストの上原ひろみさんが音楽を担当するなど「音」の素晴らしさを存分に生かしていると話題を呼んでいる。

「もともと女性の一人客も多い店ですが、最近は20代前半くらいの若い方が増えたと感じています。BLUE GIANTを見て興味を持ったという人が圧倒的。他店でも同じような現象が起きているそうです」(宇根さん)

 都内に住む会社員女性(26)もその一人。音楽は好きなほうだが、ジャズを意識したことはほとんどなかった。

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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