山口一郎(やまぐち・いちろう)/1980年生まれ。ミュージシャン。2005年にロックバンド「サカナクション」を結成。メジャーデビュー前に書き綴った言葉をまとめた『ことば:僕自身の訓練のためのノート』(青土社)が発売中(撮影/岡田晃奈)
山口一郎(やまぐち・いちろう)/1980年生まれ。ミュージシャン。2005年にロックバンド「サカナクション」を結成。メジャーデビュー前に書き綴った言葉をまとめた『ことば:僕自身の訓練のためのノート』(青土社)が発売中(撮影/岡田晃奈)

 人生を豊かにしてくれる本と映画の出合い。サカナクション・山口一郎さんが、人生を導き、支えてくれた作品について語る。AERA 2023年5月1-8日合併号の記事を紹介する。

【山口さんを支えてくれた作品はコチラ】

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 質感や重みのあるものが好きです。インターネットの登場以降、音楽の聴かれ方も本の読まれ方も大きく変化していきましたが、本の持つ質量みたいなものに相変わらず愛着があります。

 自分のルーツになる現代詩でいえば、『石原吉郎全集』。シベリアに抑留されていた人で、言葉の表現やリズムのすべてが音楽を作るうえでのベースになっています。初めて読んだのは小学校5、6年生の頃で、両親の本棚から読みあさるなかで、自分にすごくコンタクトしたんです。とくに「竹の槍」という詩がそうで、「直喩を水平に横たえ」というフレーズに「どういうことだ?」って。自分なりに解釈して、父親に話したりしながら詩を学んでいきました。

 父親はかなり個性的な人で、僕が3月に出版した『ことば:僕自身の訓練のためのノート』という本は、父親からの提案を受けて作った一冊なんです。僕が20代の頃にネット上に書いていた散文を見つけて、「本にしたほうがいい」と。最初は断っていたんですけど、強く主張されて出すことにしました。限定版を活版印刷で作ったり、僕に詩を教えた父親が出版したいと思ったというストーリーも含め、やってよかったと思っています。

■いいことも悪いことも

 パウロ・コエーリョの『アルケミスト』も思い出深い一冊です。僕はデビューしたのが26歳で、東京に出てきたのが30歳くらいと遅かったんです。子どもから大人になる過程をアマチュアミュージシャンとして過ごしたので、葛藤の時間も長かった。北海道の小樽という田舎にいたので、「いつまでふらふらしているんだ」みたいな社会的な目線にも悩んでいました。そんなとき、大切にしている友人がこの本をプレゼントしてくれたんです。生活で起きていることのすべては、自分で選んだものでなくても運命への道になっていて、いいことも悪いことも必要なものだと教えてくれた。人生について考えているときに読んだら、きっとそこにうまく滑り込んでくる本だと思います。

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