「アカイリンゴ」の監督の一人である桑島憲司によると、従来、性的なシーンは「キスをする」といった台本の簡単なト書きと監督の大まかな指示を頼りに撮影されることが多かったという。ICの導入によって、ようやく俳優自身と制作陣が、丁寧にお互いの意思をすり合わせるようになった。

「ももさんが我々と俳優の仲介をして、お互い理解しあった上で現場に入れるのはとても助かる。『男性同士のカップル』など僕には発想すらできない視点を提供してくれるのも、確実に作品のプラスになります」(桑島)

 西山が映像制作に本格的に関わるようになったのは2009年、アフリカロケ専門の撮影コーディネーターの会社に入社してからだ。

 幼稚園の時からモダンダンスを習い、高校卒業後は約10年間、アイルランドのカレッジとチェコのプラハ芸術アカデミーでダンスを学んだ。アカデミーでは実力が認められ学費免除の本科生となったが、卒業の時ダンスで身を立てることに限界を感じ、日本に帰国して新たなキャリアを築くことにしたのだ。チェコでアルバイトとしてCM撮影に関わったことがあり「働くならメディアの世界に行きたい」と考えた。

■無理を通すとやらせを招く 現場でのけんかが増える

 コーディネーターは撮影許可の取得に加え、ビザや航空券、宿泊先の予約、移動車両や現地エキストラの手配など、膨大な裏方仕事を担う。突然撮影が不許可になったり、雇ったダンサーが来なかったりといったトラブルも多く「常にメールをチェックしながら『やばいやばい』とドキドキしていました」。

 10年のサッカーワールドカップ南アフリカ大会のほか、人気バラエティー番組などの撮影コーディネートを次々と担当。元来の世話好きな性格に加え「要望をすべて叶(かな)えるのが優秀なコーディネーター」と考えていたこともあり、クライアントの希望は何でも聞き入れた。その結果、指名で仕事が入るようになり、数年で会社の稼ぎ頭に。ドキュメンタリー映画の監督で、西山の友人でもある和田萌は「西山さんは、コーディネーターとしてすごく優秀」と評した。

「現地事情に詳しいし段取りも良く、急な予定変更にもすぐ対応してくれる。ドライバーが道を間違えて危険地域に入り込んだ時も、日本人クルーには少しも動揺をみせず、『絶対止まらず走れ』と指示していて『肝の据わり方が半端じゃない』と思いました」

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