14歳で盲目の愛犬「ブー」と。犬の保護活動に関わり、かみ癖のある老犬を受け入れた(撮影/鈴木愛子)
14歳で盲目の愛犬「ブー」と。犬の保護活動に関わり、かみ癖のある老犬を受け入れた(撮影/鈴木愛子)

 インティマシー・コーディネーター、西山ももこ。2022年の流行語大賞にもノミネートされたインティマシー・コーディネーター。性的なシーンの撮影で俳優の権利を守る仕事だ。まだ日本には2人しかいない。そのうちの一人が西山ももこだ。声をあげることが難しい俳優のために、監督との間に入り調整する。映像業界で性被害の訴えが相次ぐが、古い価値観が浸透する業界でもある。そんな業界を女性たちと一緒に変えていきたい。

【写真】「アカイリンゴ」のロケ現場で

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 映像制作の現場で、性被害の訴えが相次いでいる。昨年は映画監督の園子温や榊英雄、俳優の木下ほうかに被害を受けたと女性たちが声を上げた。映画業界の環境改善に向け提言を行う団体「Japanese Film Project」が、今年3月に発表した性被害に関する調査結果にも「(ある監督から)性交渉することで、君を理解したいと説教をされ(中略)性被害を受けた」「台本のト書には具体的な動きが書かれておらず、想像したより過激なシーンで(中略)震えてしまった」などの声が多数寄せられている。俳優の水原希子も昨年、雑誌「週刊文春」へのコメントで被害を明らかにした上で、俳優の権利を守る「インティマシー・コーディネーター(IC)」を積極的に採用するよう要望した。

 ICは性的なシーンに関して、出演者が安心、安全な環境で演技できて、監督ら制作陣も満足できるシーンを作れるよう、両者の仲介や調整を担う。

 日本に2人しかいないICの一人が、西山(にしやま)ももこ(43)だ。今年1月、西山が参加した朝日放送テレビのドラマ「アカイリンゴ」の撮影に同行した。この作品は性が大きなテーマとなっており、キスやセックスといった性描写も多い。

 真っ暗な広い空間に、ベッドがぽつんと置かれたセット。窓には暗幕が引かれて日が入らず、凍えそうに寒いが、主人公には上半身裸で演じるシーンもある。西山は言う。

「極寒のセットで、若い役者は頑張っています。だからこそ出演者が後に作品を見た時、撮影で嫌な思いをしたという、苦い記憶がよみがえるようなことはなんとしても避けたい」

 多くの撮影現場はスケジュールに追われており、俳優たちは「本当はいやだけど……」といったモヤモヤを抱えつつ、流されるように撮影に応じることもある。特に若手は、年上ばかりの現場で「嫌」とはなかなか言えない。無理をして演じ、精神的なダメージを受けることもある。

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