音楽家・坂本龍一さん/1952年、東京都生まれ。映画「母と暮せば」(山田洋次監督)の音楽担当。東北ユースオーケストラの代表理事・監督も務める、作家・高橋源一郎さん。1951年、広島県生まれ。著書に『ぼくらの民主主義なんだぜ』(朝日新書)、SEALDsとの共著に『民主主義ってなんだ?』(撮影/写真部・松永卓也)
音楽家・坂本龍一さん/1952年、東京都生まれ。映画「母と暮せば」(山田洋次監督)の音楽担当。東北ユースオーケストラの代表理事・監督も務める、作家・高橋源一郎さん。1951年、広島県生まれ。著書に『ぼくらの民主主義なんだぜ』(朝日新書)、SEALDsとの共著に『民主主義ってなんだ?』(撮影/写真部・松永卓也)

坂本:そうですね。さらに言えば、SEALDsのデモは、日本の自由と民主主義を求める運動としては、明治の自由民権運動以来の高まりではないかと感じてます。僕らがやっていた60年代、70年代の安保闘争よりも重要なんじゃないかな。それに45年の空白があるから、彼らはいわゆる昔の学生運動の負の歴史をひきずっていない。シュプレヒコールの代わりに、ヒップホップを参考にコール・アンド・レスポンス(※4)を作ったりして、かっこいい。音楽家からみると、彼らのラップ的なスピーチは結構ノリがいいんですよ。それまでの日本人がやっていた盆踊り的なラップとは違って、黒人的というか、アメリカ的なラップに近くなっている。新しくて、かっこいい半面、おじいちゃん、おばあちゃんは参加するのは難しいかもしれない。福島などの、当事者の方が参加できるようなデモのスタイルを見つけることは課題だとずっと考えていて。

高橋:SEALDsの運動はすべてが正しいわけではないし、当然、たくさん欠陥もあるし、彼らもそれは認識していると思います。彼らが良かったのは、「デモをしよう」ではなく、「国会前に行こう」というメッセージを出したことでした。眺めているだけでも、たたずんでいるだけでもいいから、国会前に行くことが、意思表示になるよと伝えたことですね。

■デモって実は効果的

坂本:03年にイラク戦争(※5)反対の大きなデモがありましたよね。世界中で「World Citizen(世界市民)」を掲げ、各国で同じ日にデモをしたんです。僕はニューヨークで参加したんですけど、ニューヨークで50万人、ロンドンでは200万人が集まった。それに比べると、東京では圧倒的に少なかった。悲しかったですね。現状を変えようともしない人が、素直にストリートに出ていっている人をバカにする風潮があるけど、そういう人は自分が非常に低いレベルにあることに気がついたほうがいい。

高橋:デモって、実は思っている以上に効果がありますからね。さっき久々にデモに行ったと言いましたが、その少し前に僕は祝島(※6)でおじいちゃん、おばあちゃんたちがやっている反原発デモに行ってるんですね。超ゆるいんですよ(笑)。参加者の平均年齢が70歳を超えてるんじゃないかな。だから、週に1回、時間も30分ぐらいで、雨が降ったらやめるし、風が吹いたらやめるし、身内に不幸があってもやらない(笑)。歩きながら「原発をつくらせないぞ~」「つくらせないぞ~」とやってるかと思うと、歩きながらNHKの朝の連続ドラマの話をしている(笑)。でも、それで30年間続けて、実際に原発はつくられていない。

坂本:3・11の後、ずいぶん長いこと原発は再稼働されなかったしね。今は少しずつ再稼働されていますけれど、それでもまだ彼らは様子を見てる。今回の安保法制も、あれだけ反対の声があがらなければ、もっと早く可決しちゃってましたね。

高橋:この前、ある政治学者と話したんですが、安保法制のデモは政権のトラウマになって、憲法改正をやる気がなくなったんじゃないかとおっしゃってました。あんなデモがあるなら改正をすっぱりあきらめて、解釈改憲に向かうんじゃないかって。

坂本:今の状況で改憲しないことがいいのかは、長期的にみると判断が難しい。つまり、憲法解釈で実質、憲法改正と同じ状況がつくれるならそれでいいじゃないかと、彼らが思っちゃってる。解釈で逃げられてしまった感じですね。

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みんなが集まって発言する場所がない