「これはまずい、何とかしないといけないと思いました。アウトソーシングは金額も高いし、他人にお金を払って子どもを見てもらうなんて母親失格では、と気が引ける自分もいましたが、案ずるより産むが易し。給料の大半がアウトソーシングに飛んでいったとしても、長いスパンで考えたら、キャリアを積んでいく過程の中での必要経費。それにキャリアを積めば、後から回収できると思う。夫とも話し、頼れるものはどんどん頼ろうと決めています」(女性)

 女性の管理職についての議論には、「この人のように働きたい」と思えるロールモデルの存在が大切だとよく言われる。

「ただし、自分にぴったりなロールモデルを探しすぎるのも考えもの」と言うのは、会社で女性初の役員になった前出の矢島さんだ。いわく、自分の志向に100%合うロールモデルは存在しないと思った方がいい。その代わり、ロールモデルは一人に絞るのではなく、いろんな人を部分的なロールモデルとして学ぶのも手だ。

「私自身、女性だけでなく男性からも、そして社内だけでなくクライアントや同業他社の人からも、たくさん学んできました。女性たちに言いたいのは、全ての環境が整うのを待つのではなく、できるチャンスがあればぜひ挑戦してほしいということ。今の時代のリーダーシップは、自分が方針を決めて引っ張っていくスタイルだけではなく、チームメンバーの能力を引き出す環境をつくる“調整型”も大切。そうした視点を生かせる女性は数多くいるのでは」(矢島さん)

(ライター・松岡かすみ)

AERA 2023年3月27日号より抜粋

著者プロフィールを見る
松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

松岡かすみの記事一覧はこちら