管理職のオファーを受ける30代前後は結婚や出産などライフイベントの時期とも重なる。育児との両立に悩み、ためらう女性も少なくない(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
管理職のオファーを受ける30代前後は結婚や出産などライフイベントの時期とも重なる。育児との両立に悩み、ためらう女性も少なくない(撮影/写真映像部・高橋奈緒)

 国が掲げていた女性管理職の割合を2020年までに30%とする「2030」はあっけなく先送りされ、いまだ低水準にとどまっている。女性が管理職に就く心理的・物理的壁を越えるにはどうしたらいい? AERA 2023年3月27日号の記事を紹介する。

【図】管理職に占める女性の割合はこちら

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 男女雇用機会均等法が施行されて40年近く。大手企業を中心に女性が働きやすい環境は整ってきたものの、女性“活躍”推進の重要なポイントでもある「女性管理職比率」は、いまだに低い水準でとどまっている。2021年度厚生労働省「雇用均等基本調査」によると、課長相当職以上の女性の割合は12.3%、係長相当職以上の割合は14.5%と、いずれも前年度より0.1ポイント低下している。

 若い世代を中心に、管理職になりたくないと考える人も増加傾向にある。三菱UFJリサーチ&コンサルティングで執行役員を務める矢島洋子さんは言う。

「管理職になりたがらない傾向は、女性のみならず若い男性にも見られます。働き方改革によって、部下を早く帰らせるために自分が仕事を引き受けるなど、管理職の仕事量が以前より増え、ハードになっている傾向も要因の一つ。管理職になると、時間管理対象ではなくなって仕事量も増え、責任が重くなる。その割に、見返りが少ないと考える人が多いのだと思います」

 実際に管理職になると、一般社員よりも労働時間が長くなる傾向にある。「日本の多くの企業に、長時間労働が評価される傾向がある」と指摘するのは、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する山口慎太郎教授(東京大学・労働経済学)。山口教授によれば、経済学の研究の中でも、残業時間が上がるにつれ、昇進機会が上がることが明らかになっているという。

「つまりフルタイムで働いているだけでは昇進のチャンスが巡ってこず、残業をするほどに昇進機会が上がる。それも並外れて残業をする人ほど、昇進機会が上がる傾向も見られます。そのため、家事育児などの負担が大きく残業が難しい女性は昇進機会が下がり、女性自身もキャリアを積みたくても自分には難しいと諦める人が出てくるのは当然です」(山口教授)

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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