Netflix映画「ちひろさん」 (c)2023
Netflix映画「ちひろさん」 (c)2023 Asmik Ace, Inc. (c)安田弘之(秋田書店)2014

■棺桶の横で眠る姿に

――世間体やルールといったしがらみのなか、自由にふるまうちひろさんの姿に、町の子どもや大人たちはひかれ、影響を受けていく。

有村:ちひろさんみたいな人にだからこそ言えることがあるって感覚は自分のなかにもあります。

今泉:「大人ってこうじゃなきゃいけない」という枠の外側と出合うことで広がるものがあるけど、それがちひろさんだよね。積極的に手を差し伸べるわけじゃないけど、ちょっとした一言で視野が広がったり。その温度感もすごく素敵だと思った。

有村:年齢も仕事も全然違うけど、芯を食ったところで会話ができる距離感というか。いませんか? そんな人。

今泉:僕にとっては母方の伯父がそうだったかもしれない。

有村:どんな方だったんですか。

今泉:子どもたちと悪ふざけしながら遊んでくれるような人で、おじいちゃんが亡くなったときも変わらずだったんです。でも、夜中トイレに起きたときに棺桶(かんおけ)の横で一人寝ているのを見てしまって。小学生だった僕にとって、誰も見ていないところでそういうふるまいをする姿がかっこよかったし、そんな大人になりたいと思った。

有村:いいですね。「ちひろさん」は、自分のぐるぐるしていた気持ちを救ってくれた作品だから、心のままに生きることは悪いことではないんだって感じていただけたらうれしいな。

(構成/編集部・福井しほ)

AERA 2023年2月20日号